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「本当に、驚いたよ」
サキくんの声はかすかにかさついていた。ミューくんを片腕で抱いて、もう片方の手で頭を撫でている。
彼はわずかに、俺へ顔を向けた。俺は、ぐったりして眠っているミューくん越しに、サキくんを見ている。
サキくんはなにも云わない。ただ、その目に涙が盛り上がった。俺は顔を伏せる。「ごめん」
「いえ」サキくんは喘ぐような呼吸をした。「マオさんが戻ってきて、よかったです」
涙声だ。でも、泣いているふうではない。こらえているんだと思う。
ユラちゃんが咳払いした。
「あの……ありがとうね、サキ」
「え?」
「マオのことで、突然、呼びつけたでしょ。ミューを。ミューが、あんたも一緒だっていうから、わたし達驚いたのよ」
俺は顔を伏せたまま、目だけでサキくんを見た。サキくんは優しそうに微笑んで、小さく頭を振った。
ミューくんが呻く。
「あの」
顔を上げる。左側に座っているユラちゃんを見た。間には、ほーじくんとリッターくんが居る。「ミューくんを呼んだっていうの、くわしく聴かせてもらえる?」
ユラちゃんは軽く肩をすくめる。「そのままよ」
がったん、と大きな音がして、サーダくん達の馬車から、太い棒がとりはずされたのが見えた。あれが、車軸かなあ。
みんなもしばらく、作業を見ている。ネクゼタリーさんはにこやかに、業者さんに対応している。その口がぱくぱくするのは見えるけど、さっきよりも距離があって、声は聴こえなくなっていた。
俺達はかし馬車の駅の、端っこに居る。傍には……部外者は居ない。俺の、封印の場に居なかったひとは。
サキくんがふーっと、長く、息を吐いた。
「四日前のよなかですよ」
「サキ?」
「ああ、ミューがね。血相変えて、僕のところへ来たんだ。ユラから手紙が来たって」
サキくんはふふっと、小さく笑った。疲れた様子だ。「おかげで、誤解されてしまったよ。僕と彼が、もめている恋人同士だ、というようにね。よなかに可愛いミューが泣きながらやってきて、僕にすがりついたんだもの。どう思われるかくらい、君にだってわかるだろう、ユラ?」
リッターくんが息を吐く。
ユラちゃんが茶化すように云った。
「あんた達が誤解されてるのは、今にはじまったことじゃないでしょ。わたしの所為にしないで」
「間違いなく君の所為だよ。なにしろ僕らは、その足で武器屋へ行って旅に向いた装備を調え、騎商でラシェジルをかりて、レントを飛びだしたんだから」
サキくんの声は、もうかさついていなくて、ユラちゃんとそうやって云いあえる嬉しさみたいなものがにじんでいた。




