3915
ミューくんが地面と激突することはなかった。サキくんがさっと抱えたからだ。
ユラちゃんが大きく口を開けている。ほーじくんとリッターくんも、それぞれ驚いたらしい表情だった。
サキくんは、随分等級をあげたのか、ミューくんを抱えてもつらそうな様子はまるでない。顔付きも、なんていうかな。少し、精悍な感じになっていた。ふっくらしていて可愛いサキくんではない。頬の線が、シャープになってしまっている。
それが、健康的ならよかったけど、そんなふうには見えなかった。やつれている感じをうける。
「ユラ、悪いけど、ミューを少し休ませたい」
サキくんはやわらかい調子で云う。「彼、無理してるから。ごめんね」
かし馬車の乗り継ぎ場所が、すぐ近くなので、そこへ行くことになった。
ラシェジルは、リッターくんが手綱をひいている。ミューくんは、サキくんが背負っていた。ネクゼタリーさんが、馬車の座席に寝かせることを提案したのだけれど、サキくんは断ったのだ。目が覚めた時にマオさんやほーじが居ないと不安になるだろうからと。
ミューくんは、寝息をたてている。顔色がよくないし、目の下にくまがあった。ちょっと……かなり、ふっくらしたかな。こちらも、不健康な感じに、ふっくらしている。というか、あの腕や脚は、むくみじゃないかな。そういう感じがする。水っぽい感じなのだ。
サキくんはたまに、ミューくんに言葉をかけていた。低声なので断片的だけれど、大丈夫だよ、とか、マオさんがどうの、とか、天罰は解けた、とか、そういうのが聴こえてきた。
ミューくんの表情はやわらかい。サキくんのせなかで、安心しきっているのだ。サキくんにすべてを委ねて。
サキくんは、それを肩越しに見て、ほっとしているらしかった。
かし馬車の駅は、サービスエリアみたいなところだった。服や靴を売る露店や、あまり質はよくないみたいだが武器を売っているひとも居る。お手洗いらしい場所もあった。
かし馬車の商会と云っても、ひとつではない。ただ、サーダくん達が馬車をかりた商会のひとは、ちゃんと居た。屈強な男のひと達が、数人でいくつかの馬車の整備をしている。それは、どの商会とかではなくて、専門業者さんみたい。サーダくん達がかりた馬車は、車輪と車軸をかえることになった。その作業には時間がかかる。
ただ、その時間が、ミューくんの休息には丁度いい。ネクゼタリーさんが馬車の商会のひとと話しているのを見ながら、俺達は地べたに座った。ミューくんはサキくんに凭れて、まだ眠っている。




