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「俺のことも報せてほしい」
リッターくんが無表情に云う。「ニニが俺を庇って怪我をしたと。だから、俺は賠償するつもりがあるし、ニニの家族が望むなら、彼を生涯世話する。結婚することだってできる」
「それは云いすぎではありませんか、ロヴィオダーリ卿?」
ネクゼタリーさんがはりついたような笑顔で返した。「あなたはロヴィオダーリ家の跡取りなのだから、婚姻を自由にできはしないでしょう」
「俺には兄弟が居る。俺が居なくても家は困らない」
「家を出るつもりなら、ハイオスタージャ卿をどうやって世話するのですか」
「商会は俺の名義だ。家を出ても、関係ない」
リッターくんはかたくなだ。ネクゼタリーさんの顔が険しくなっていく。もう笑みはない。「ロヴィオダーリ卿……」
「あっ」
ほーじくんが、高めの声を出した。全員、それに気をとられる。
ほーじくんは前方を見ていた。ラシェジルが走ってくる。それには、ふたりの人間がまたがっていた。長い金髪が風になびき、日光を弾いてかがやいている。
ユラちゃんがぱっと、表情を明るくした。「ミュー! はやかったわね!」
ラシェジルにはミューくんと、ミューくんを後ろから支えるサキくんがまたがっていた。
俺達の馬車が停まり、その近くでラシェジルも停まった。サキくんが飛び降り、ミューくんを抱くようにして馬からおろす。
ミューくんは40㎝くらいの、小振りな杖を握りしめ、こちらへ向かって走ってきた。彼は無言で俺の手首を掴む。「燕息」
ミューくんは息を切らしてそう云い、俺の体とミューくんの体が光る。サキくんが追いついた。
「ああ、マオさん、どうして実存者の天罰なんて」
「それはもういいのよ!」
ユラちゃんがくすくす笑った。ミューくんとサキくんは、えっ、という顔で、ユラちゃんを見る。ふたりとも汗をかいていて、呼吸は浅い。
ユラちゃんはほっとしたのか、にこにこしていた。「マオの天罰はもう解かれたわ。井へ参ったらゆるされたの」
「え?」
ミューくんが呆然と、俺へ向いた。サキくんもきょとんとして、俺を見る。「マオさん、あの、僕の声、聴こえますか」
「うん」俺は頷いて、苦笑いした。「ごめん」
あの時、三人が話していたのは、これだったんだ。伝糸経由の手紙で報せたのかな。俺が天罰をくらったって。
サキくんはぽかんとした。ユラちゃんが軽く跳びはねる。
「それよりも、ニニだわ。ミューが来てくれたらもうなんにも心配ないわね。ミュー、治療してもらいたい人間が居るの。大丈夫よ、治療代はリッターが幾らでも出すわ」
「あ……ああ、マオさん」
ミューくんは震え、笑みらしいものをうかべてから、倒れた。




