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「わたしが裁量できることではありませんが」
ネクゼタリーさんは静かに応じる。「彼のご家族が」
「うちのばかが、ニニの面倒を生涯見るなんて申しますの」
ユラちゃんの言葉に、ネクゼタリーさんは寸の間口を噤む。
けれど、彼は微笑んだ。
「ハイオスタージャ家が判断することでしょう。わたしは口をはさめません」
「ネクゼタリー卿は、ニニを特別、可愛がっていたようにみうけます」
「ええ、彼は優秀な癒し手ですし、素直で主に愛されています。目をかけたくなるかたですよ。わたし程度がおこがましいですが」
ネクゼタリーさんとユラちゃんの会話は、いまいち嚙みあっていない。ユラちゃんの微笑みが少しだけひきつった。
「ニニはネクゼタリー卿になついているようでしたわ」
ネクゼタリーさんはくすっとした。「それは、レフオーブル嬢のかいかぶりです。わたしのようななんの取り柄もない人間よりも、護衛士であるロヴィオダーリ卿や、祇畏士である弟達に、彼はなついているでしょう」
「そんなことございません」
ユラちゃんの眉がぴくぴくしていた。
俺達はゆっくりすすむ。たまに馬車や、ラシェジルにまたがった旅人とすれ違った。四人ぐらいで歩いているパーティも居る。
塩を持っていませんか、とか、干し肉を持っていませんか、と訊かれて、幾らか融通することもあった。助け合いなので、お代はうけとらない。でも、かわりに質のいい短剣をくれたり、商品だという可愛いバブーシュをくれたりした。物々交換だ。
みんな、俺達の馬車が一台、まともに走行できないことになっているのに、残念そうにしてくれて、修復者の加護を、とやってくれた。なんでも神さま頼みになりがちなのはどうかと思うけれど、こういうふうにはげましてもらえるのは好きだ。俺達はそのひと達に、やっぱり、修復者の加護を、とやる。みんな、にこにこして、東方向へ向かっていた。行商の為や、荒れ地の気候を調べる為や、めずらしい本を買いに行く為や、魔物を退治する為に。
次の町に着いたら、リッターくんは伝糸経由の手紙で、家族へ連絡する。ニニくんを治療できそうな癒し手をさがしてもらう為に。
それから、ネクゼタリーさんが、ハイオスタージャ家へ連絡するそう。カルナさんは難色を示したが、結局それで話がまとまった。
荒れ地おくりから戻ってこれた以上、ニニくんがハイオスタージャ家へ戻るのはほぼ確定事項だ。だったら、今の状態を親兄弟に報せるのが筋だと、ネクゼタリーさんは譲らなかった。




