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結局俺はまた、もごもごと弁明めいたことを云う。
「ごめん。違う。そうじゃなくて、タスにそういうことをしてほしくない」
「なぜ?」タスは低く云う。「お前は何故あいつを助けようとする。ああまでなっては、もう無理だ」
「無理じゃない。ユラちゃんが、そう云ってたから。それに、みんなも落ち着いてる。大丈夫ってことでしょ?」
俺にはこちらの世界の常識はない。
でも、ユラちゃんは物知りで、なんだって知ってるしなんにだって興味を持つ。意識不明になったひとの治療についても、くわしいだろう。
ティヴァインの兄弟は行に出ているひと達だ。荒れ地の魔物がいかに強いか、冒瀆魔法がどれだけ厄介か、俺は身をもって体験した。善なる魂を持っていないひと達だって行に同行するのだから、そのひと達が愁夢や叫喚で具合を悪くすることはある。だから、ティヴァインの兄弟は、意識を失って目を覚まさないひと達が治療をうけられるところを、知っていると思う。
だから俺は、希望にすがっている。
もし、みんなが思っている程ニニくんの状態がよくなくても、廟や癒し手にコンタクトをとるまでは、素人判断で勝手に「楽に」するなんて、できない。
タスを見た。
「俺はさ、タス」
泣きそうになっていた。こらえる。タスは俺を見ない。「ああ」
「どうせなら、物事のいい面を見てたいんだよ。ぎりぎりまで悪あがきしたいんだ。ばかだからね」
タスはわかったかわからなかったか、小さく鼻を鳴らした。
息を整える。タスはまた、腕を組む。
「……わたしは自分のひきおこしたことには責任をとりたい」
「ニニくんの怪我は、タスの所為じゃないよ」
「違う」
いやにきっぱりと云い、タスは頭を振った。目が半分閉じられている。山羊と鰐の中間みたいな顔は、見慣れてしまったのか、昨日のレットゥーフェル達よりも随分やわらかい印象をうけた。
「わたしが、余計なことをした」
「余計?」
「レティアニナは、癒し手だ。ヤラも恢復魔法をつかえるが、レティアニナは貴重な癒しの力を、ふたつも持っている」
頷く。タスの声には、惜しむような、悔やむような色が、多分にあった。
癒しの力を持つことがめずらしいらしいレットゥーフェルのタスにとって、ニニくんのような存在がより、得がたいもののように感じるであろうことは、わかった。癒し手を貴重なものと捉えるその感覚は、こちらの世界の出身でない俺にはよく理解できる。
タスは息継ぎした。「失うのがおしかった。執着した」




