3901
タスは座席に腰掛け、腕を組んで項垂れていた。槍は傍らにある。
「タス、おはよう」
彼は俺を見もしない。というか、反応らしい反応はない。
俺は馬車のなかへ這入り、タスの斜向かいに座った。タスは這入って右の奥に座っていて、俺は這入って左の手前だ。
「昨日は、ありがとう。頑張って戦ってくれて。カルナさん達を、まもってくれたよね」
云いながら、くだものを盛ったボウルを、タスの隣へ置いた。「天罰なんて、ややこしいことになって、ごめん。これ、朝ご飯。たべ」
「レティアニナは?」
俺は寸の間、かたまる。
タスは顔を上げた。咎めるような目付きだ。「レティアニナは、どうなっている」
「……あー……まだ、意識は、戻ってない」
「まだ、か」タスはふっと、腹がたったみたいに笑う。「まだ、な。いずれ目を覚ますと、お前はそう思っている。そういうことだな?」
「それは……そうでしょ。大丈夫だよ。ユラちゃんも云ってたけど」
タスは聴いていないかもしれない。俺はちょっと、口を噤む。それから云う。
「ユラちゃんが、あれくらいなら、腕のいい癒し手がなんとかしてくれるって、云ってたんだ。だから、大丈夫。俺、余裕、あるし、癒し手に」
「お前はどうにもならないことがあるのを認めるべきだ」
タスはどうしてだか、ニニくんのことを絶望視しているようだ。
俺は思わず拳をつくる。なにかを叩きたいような衝動に駆られた。
「どうして諦めるみたいなこと云うの」
「お前こそどうしてなんの問題もないように振る舞う。自分を騙しているのか」
「騙してなんてない」
「レティアニナは目を覚ましていない。その状態のあいつにどうやって食事をとらせる。まわりの人間がなにかしてやるにしても、限界がある。丸一日目を覚まさなかったらもう諦めたほうがいい。そういうものだ」
また、口を噤んだ。
タスは、言葉は厳しかったけれど、口調はなにかをはじているような、後悔しているようなものだった。俺は眉を寄せる。
タスは俺を見ない。
「タス。今まで、そんなふうにしてきたの」
彼は端的に答えた。
「お前はよく知っている筈だ。冒瀆魔法に他人を癒すものはない」
ああ……。
そうだ。
レットゥーフェルが冒瀆魔法しかつかえないものなのかどうかは知らないけれど、たしかに、冒瀆魔法に他人を癒すものはない。俺が疑似恢復魔法としてつかっている「使役」は、冒瀆魔法ではなく、スキルだ。
タスはぶっと鼻を鳴らした。
「今までで一番の手落ちだ。レティアニナはわたしの所為で死ぬ」
感想ありがとうございます。はげみになります。




