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次の瞬間、ニニくんが今の今まで居たほうを下にして、馬車が倒れた。それはレットゥーフェルの攻撃の所為もあるけれど、慌てたトゥアフェーノ達が逃げようとしたのもひと役買っているだろうとのこと。
「ほら、うしろに……魔物達の馬車がある」
ほーじくんはしぼりだすように云う。「あれ、ダストが御者をしてた。トゥアフェーノ達、こわくなって、ダストのとこへ逃げようとしたんだと思う」
「それは、ありそうなことだな」
リッターくんは腕を組んでいた。険しい顔付きになっている。
俺は軽く片手をあげた。
「ねえ、どうしてニニくんが狙われるの?」
「……ハイオスタージャ卿は、お前がつれているレットゥーフェルと親しくしていた。それが関わりあるのではないか?」
ああ……レットゥーフェル同士の、縄張り争い的なものがあるのかな。
たしかに、リッターくんの云うとおり、ニニくんはしばらくタスにべったりだった。
魔物は人間とは感覚が違う。もしかしたら、レットゥーフェル同士だとわかるような匂いがあって、それがニニくんについていたとか、ニニくんからタスの魔力を感じたとかで、タスの仲間だと認識して襲ったのかもしれない。
リッターくんは腕を解き、ニニくんの口許を拭った。
「レットゥーフェル達は、マオのレットゥーフェルになにか云っていたな」
「うん……」ほーじくんはかすかに項垂れる。「ぼく必死で、なんて云ってたか、あんまり覚えてない」
「俺もだ」
リッターくんは簡単に云って、肩をすくめた。
「だが、レットゥーフェルが人間と一緒に居ることを責めているようだった」
「あ……ああ、そうだ、ね」
ほーじくんはぎこちなく、頷く。リッターくんは口を噤む。
タスが人間と一緒なのは、ほかのレットゥーフェル達にとっては気にいらないことなのか。だとしたら、襲撃の原因は、タスを使役している俺じゃないか。
でもそれならどうして、ニニくんなんだろう。あの時、タスはマルジャン達の馬車にのっていた。それに一番近い人間なら、御者をしていたダストくんなのに、どうしてニニくんを?
考えてもわからない。「もしかしたら、タスがなにか知ってるかもしれない。明日、訊いてみる」
「ああ」リッターくんは小さく息を吐いた。「俺は彼に謝罪していない。ハイオスタージャ卿のことについて。ハイオスタージャ卿に、あのような怪我をさせてしまったことについて。マオ、もし可能なら、レットゥーフェルに謝罪してもいいだろうか。レットゥーフェルが気を悪くするかもしれないが」




