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カルナさんが椅子をひき、リッターくんがそこへニニくんをおろす。ほーじくんが奥へと歩いていった。
「つかえそうな坊を見付けてくる」
「すまない」リッターくんがほーじくんのせなかへ云った。「ありがとう」
ほーじくんは軽く片手をあげて、小さなアーチから奥へと這入っていった。ダストくんがそれを追う。「ほーじ、俺も行く。マオ、サーダを見ててくれ」
後半は、少しふざけた調子だ。サーダくんはというと、からかわれているのに怒った様子ではなかった。微笑んでいる。
ニニくんは眠っているようだった。呼吸は安定している。リッターくんが傍に片膝をついて、じっと様子を見ていた。
「ここって、なに?」
「僧坊ですよ」
誰へともない俺の問いに、サーダくんが答えてくれる。
天井や、壁を見ていた俺は、サーダくんへ顔を向けた。壁には、文字が書かれた布が貼り付けられていた。なにかの日程のようだ。それが消費されうるものなのか、俺には判断できない。
俺と目が合うと、サーダくんはちょっとだけ表情を曇らせた。直後に、哀しそうな微笑みになる。俺が「僧坊」というものがなんなのかを理解していない、と、わかってくれたらしい。
「井に参るのには、時間がかかることがあります。街道でも魔物は出ますし、遠方からのかたもいらっしゃいます。そういう時に、僧坊に泊まれるんですよ。勿論、はじめから僧坊に泊まるつもりで来るひとも居ます」
頷く。現に俺達は、街道で魔物に襲われた。それに、セロベルさん夫妻や、リューさんが井に参る時、泊まりがけだった。
レントは大きなまちだし、そういう都市は大概が井に近い場所にある。レントの傍にも井はある。
それでも、わざわざ泊まるのは、宗教的ななにかがあるからだ。その感覚は俺にはわからないが、そういうものが存在することは理解してる。
巡礼に近いのかな。お遍路とか。だから、ここに来たひとに宿を請われたら井のひと達が断らないのは、こちら的にはおそらく当然のことなのだ。
サーダくんは、俺に言葉が通じたので、ほっとしたようだ。安心したみたいに軽く息を吐く。
「無人でなかったら、食事ももらえますから、にぎわっているところもありますよ。それに無人であっても、こうやって僧坊をつかうのは、いけないことではないんです。ランタンなんかも勝手につかっていいですから」
……あ。
そういえば、こちらで買った本に、なかったっけ? グルメ紀行的な本で、井をめぐるやつ。料理の説明ばかり見ていて、井とか僧坊のくわしいことはスルーしていた。
ていうか、書いていないか。常識っぽいもん。僧坊。




