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「お前は黙っていなさい」
ネクゼタリーさんは冷たい目でほーじくんを見た。
けれどすぐに、その表情が和らぐ。やわらかい手付きで、弟の頭を撫でる。
「フォージ、マオさんは疲れているのではないですか。実存者が怒りをしずめてくれたとしても、しばらくは不調が続くかもしれません。横になってもらったほうがいいでしょう」
「あ……わ、わかった」
「フォージ、場所をわきまえるんですよ」
丁寧な口調で釘を刺し、ネクゼタリーさんはユラちゃんへ目を戻した。「レフオーブル嬢、申し訳ないですが、わたしはここに魔物をいれることを許容できません。けれども、あなたに不快な思いをさせるのも心苦しい。わたしも井を出ていくと云うことで、ゆるしてもらえませんか? わたしはばちあたりな人間ですから、ここから退いたほうが、主もおよろこびでしょうし」
ばちあたり?
ユラちゃんは半開きだった口を閉じた。それからまた、開く。
「いえ。ネクゼタリー卿のおっしゃることはわかります。あの者達が、自らここへ近寄らないのだから、好きにさせましょう。ただ、ここは井です」
ユラちゃんは息継ぎをする。「ここへ参る人間は居るでしょう。そういうひと達が、あの馬車のなかを見たら驚いてしまうわ。説明の為に、わたしが一緒に居ることにします」
「レフオーブル嬢」
「わたしの至らない従者を置いていきますが、お手柔らかにお願いいたします。あれはばかですから、多少のことは大目に見てくださいませ」
ユラちゃんはそう云って、すたすたと、湖をもした建造物のほうへ戻っていった。
ネクゼタリーさんはこちらへお辞儀して、それを追った。
湖の傍にずっと居るのは不敬だろう、ということになったみたいで、俺達は移動した。リッターくんはニニくんを抱えて、はなそうとしない。
リッターくんは、ひとをまもれるから護衛士になりたい、と云っていた。めずらしくて、有名な偉人が護衛士だったから、じゃない。ひとをまもるのに有利な職業だから。
なれるのだったら、癒し手を選んでいたとも云っていた。癒し手は尊敬すべきひと達だと。
リッターくんにとっては、自分が癒し手をまもるのではなく、自分が癒し手にまもられた、そのことが、大きなショックなのだ。その上、その為にニニくんが大怪我をして、怪我が治っているのに目を覚まさない。
リッターくんにとって多分、一番なってほしくない、悪夢が現実化したような情況が、今なんだ。
感想ありがとうございます。はげみになります。




