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お午、馬車が停まった。みんな、用足しをしたり、サンドウィッチを食べたりする。カルナさんとミエラさんがはしゃいだような声で喋っていた。彼女達も、荒れ地から離れて気分が上向いているらしい。
唯一、ほとんどかわりがない様子なのは、ニニくんだ。ぼんやりしていて、ネクゼタリーさんがニニくんをひっぱってどこかへ行ったり、なにか喋っていたりする。ニニくんは人形みたいだった。
別に気をぬいていたとか、荒れ地から離れて緑が増えて安心していたとか、そういうのは関係ない。
午后、馬車が急に停まった。外から叫び声が聴こえてきた。ユラちゃんが馬車をとびだす。カルナさんもミエラさんもまっさおになってそれを追う。今の悲鳴はニニくんのだ。ニニくんの。
かたまっていた俺は、心臓をどきどきさせながら外へ出た。
転んだ。痛い。
体を起こす。ひどい状態なのがわかった。サーダくん達の馬車が倒れている。御者をやっていたサーダくんが起き上がろうともがいていた。手綱が絡まっているのだ。ダストくんが駈け寄って、小刀で手綱を切ろうとしている。
上になってしまっている扉から、ほーじくんが矢のように飛びだした。はばたいて戻り、ネクゼタリーさんの腕を両腕で掴んで引っ張り上げる。ネクゼタリーさんはあいた手をステップにかけて、ぐいっと体を引き上げ、その勢いのまま外に出た。ニニくんがのっている筈。ニニくんが。
なのに、ほーじくんはネクゼタリーさんの手をはなしたあと、杖をとりだしただけで、ニニくんを救出するふうはない。ネクゼタリーさんも、ダストくんが切れ目を入れた手綱をいとも簡単にひきちぎってサーダくんを乱暴に立たせ、馬車の裏手にまわった。
ニニくんは馬車のなかに居ない。
女性陣の姿はとっくになかった。ダストくんがサーダくんを支えて立っている脇を通って俺も馬車の裏手へ行く。ダストくんのまわりではトゥアフェーノ達が泣いている。サーダくんの手首は変な方向に曲がり、血も出ていた。脚だったら彼には飛行があるが、手首の痛みには対抗しようがない。
馬車は普通の状態ならばそんなに邪魔な感じはしないが、横倒しだと凄く邪魔だった。
エクシザがぎゃあっと鳴いた。
横倒しになった馬車の裏、少し離れたところにマルジャン達の馬車があって、ドアが開いている。出てきているのはタスとエクシザだけだった。ほーじくんが恩寵魔法をつかうのが見える。あれはなんだっけ? 神気?
すでにその場所に居たリッターくんがレットゥーフェルの槍を剣で弾いた。
俺達はレットゥーフェルの襲撃をうけているのだった。




