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魔力薬の包みをとりだす。燕息をつかっている、年配の女性の傍まで行って、テーブルに包みを置いた。テーブルの上では、髪に血がしみこんだ男性が、苦しそうに唸っている。
女性は軽くこちらへ顔を向け、困ったような嬉しいみたいな、複雑な微笑みをうかべた。なにか云う。ありがとう、だと思う。片手で器用に包みを開き、まずい丸薬をとりだして口へいれ、お水もないのにのみこむ。
彼女が燕息をもっとつかうと、男性の唸りがなくなり、安らいだ顔で寝息をたてはじめた。魔物の毒にやられていたか、精神的なショックがひどかったか、精神をどうにかするような魔法をつかわれたか、とにかく燕息で治療する必要があったらしい。
女性はほっと息を吐き、それから手をあげて軽くぱたぱたさせた。そうしながら、なにか云う。なんだろう?
食堂中から、ぞろぞろと、数人、集まってきた。ああ、外から怪我人を運びこんできたひと達だ。
服が霧雨に湿り、顔には血がつき……でも、怪我をしたり、痛そうな様子ではない。
彼らのなかには、すでに治療をうけたもと・怪我人も居るらしかった。服が裂けているひとがめずらしくないのだ。服の袖で、額の生え際辺りにかたまった血を、なんとかこすりおとそうとしているひとも居る。額にひろがって、顔が赤くなってしまっていた。
戦ったひと達だ、とよくわかる。分厚いキルトの服を着て、胸当て、籠手、脛当てなどをつけ、剣や錘、棍棒などの武器を持っているのだ。完璧に傭兵である。
おそらく、商人の護衛でもしていたか、この町そのものを護衛しているか、この辺りに魔物狩りに来たか、どれかだろう。荒れ地近くは経験値稼ぎにいい場所らしいから、レベル上げに来たひとの護衛ってこともあるか。
女性なのにアクセサリをつけている、というのも、傭兵だと判断するポイントだ。
ディファーズ系やディファーズ人は異性装をいやがるから、服のぼたんみたいにしたり、腕環をつけた上からぴったりした長袖を着てごまかしたりするらしいが、この場に居る傭兵らしき女性達は、ディファーズ系には見えなかった。
ずぼんをはいている女性もふたり居て、ちょっと戸惑ってしまう。こちらに慣れてしまっているなあと思う。悪いことじゃないと思うけれど、いいことでもないような気がする。
年配の女性が、集まってきたひと達になにやら話している。俺は静かに後退って逃げようとしたのだが、年配の女性に腕を掴まれた。彼女はあいた手で俺を示し、一席ぶっている。




