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ニニくんのパニックは、門衛が手をはなしてもおさまらなかった。門衛達は突然のことに、こちらもパニックを起こしそうな表情だ。
ネクゼタリーさんが飛びかかるみたいにしてニニくんを抱いた。が、ニニくんは手足をばたつかせて抵抗する。ダストくんが加勢し、ニニくんはダストくんの手をひっかく。
ネクゼタリーさんとダストくんは、じたばたするニニくんに腕を嚙まれたり、顔をひっかかれたりしながら、彼を馬車へつれていった。体格のいいふたりがかりでも、ニニくんをそうやって運ぶのは、大変な重労働のようだった。
馬車へはいって扉が閉まっても、ニニくんの悲鳴はくぐもっただけで、まだおさまらない。ネクゼタリーさんとダストくんの声も聴こえる。
ユラちゃんが厳しい声で門衛を咎めた。ユラちゃんの怒りは手で触れられるくらいに明らかだ。彼女はいつもよりも体が大きいみたいに見えた。怒ったエクシザみたいに、ふくれあがっている。
俺ははっと我に返って、馬車へ走った。
混乱しているニニくんに、ネクゼタリーさんとダストくんのふたりで対処するのは、だめだ。どちらも体格がいい、髪の長い、着飾った男性なのだ。ニニくんはリッターくんにさえ怯えていたのである。リッターくんよりも大柄なふたりと一緒では、パニックがおさまらないかもしれない。
その恐怖はどれ程だろう。
ステップをあがって扉を開くと、ネクゼタリーさんがニニくんを床へおさえこんでいた。ダストくんが荒い息でこちらを振り返り、マオ、なんとか、と云う。
俺はネクゼタリーさんの横にどうにか体をねじこんで、ばたばたしているニニくんの手を掴んだ。プラチナと金の指環がひんやりしている。
ネクゼタリーさんがニニくんに腕を嚙まれている。ニニくんは泣きじゃくっていた。顔がまっかだ。俺はネクゼタリーさんの体を軽く叩き、ニニくんをおさえる力が強すぎることを伝えようとする。
それから、その体勢そのものが、ニニくんにとってはおそらく恐怖であるということも、報せたかった。
でもできない。ダストくんが喚き、ネクゼタリーさんは俺の存在に多分気付いていない。彼はニニくんだけを見ているらしかった。
ニニくんは完全に、俺もダストくんもネクゼタリーさんも見えていなかった。ただただおそろしかった瞬間を思い出して、追体験している。ネクゼタリーさんの腕を嚙むのをやめると、今度はネクゼタリーさんの指を嚙みちぎろうとしている。
俺はどうしようもなくて、愁夢をつかった。




