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なにより、どれだけ資質があってもそれを潰してしまったら意味がない。それを潰さずに入山までサポートできたという意味で、入山経験者の親が尊敬されているのだろう。
だったら母親も、と思わないでもないが、ただ、わからなくもないんだよなあ。
環境が厳しいところだからか、男性よりも女性を大事にしてるんだよね。長老達ってどうも、収穫や、別の村との外交もしているみたいだし、そこで女性になにかあったらまずい、という、意識がなんとなく透けて見える。
言葉は悪いが、なんとなくこの辺りの風習には、男性はいざとなったらかえがきく、という考えがうっすらあると思う。環境が環境だから、仕方ないことだろうけれど。
ユラちゃんがずいと手をさしだしてくる。デーツジャムのお焼きをまだ食べたいようだ。俺は半笑いで、収納しておいたお焼きをひとつとりだし、ユラちゃんの手にのせた。熱かったみたいで、彼女はそれをお手玉している。
バドさんとルルさんが、リッターくんとほーじくんに喋りかけ、三十秒くらい話した。ほーじくん達が頷くと、ふたりはにこっとして立ち上がり、パン生地がはいっていたボウルを持って出ていく。
リッターくんがお鍋の中身をかきまぜた。ユラちゃんが棚を指さし、ほーじくんがそちらへ行く。食器を持ってくるみたい。バドさん達から、シチューを食べるようにいわれたんだろうか。
パンがないので、俺はざるをとりだして、そのなかにデーツジャムのお焼きを幾つかいれた。折角だし、焼きたてを戴こう。食べすぎたらおなかを壊すよ、と云いたいのだが、云えなくて、もどかしい。
食器を持ってきたほーじくんは、リッターくんの隣へ座ってしまった。少し、寂しい。
配膳はリッターくんとほーじくんがしてくれた。ほーじくんがリッターくんにからの器を渡し、リッターくんがそれはシチューをよそってユラちゃんの前へ置く。ユラちゃんはそれを、俺にくれた。
そんなふうに器が行き届き、リッターくんとユラちゃんは黙りこみ、動かなくなる。食前のお祈りだ。
今朝も、ほーじくんはお祈りをしようとしていない。なにか、決意のようなものが感じられる。というか、かなり強い意思があるのだと思う。
お鍋越しに、ほーじくんと目が合った。彼は口を開き、しかし閉じる。俺はうっすら笑った。本当は、お祈りをしたほうがいいのじゃない、と云いたい。その助言はティヴァイン家やほーじくんの為じゃない。俺がほーじくんを失いたくないからそんな無責任なことを云いたいのだ。
ほーじくんは俺がくだらないことを考えているのなんて知らない。お焼きをひとつとって、割き、シチューへ沈めていた。




