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食糧がなくなった。ナジさん達がもう一回、はちみつ漬けのケーキを持ってきて、なにか云いながらひと切れずつ配ってくれた。残った分は、ナジさん達で分けて食べている。そういえば、俺がはじめてこれを食べた時も、ドールさん達が一緒に食べてくれたんだった。お喋りを聴いていたら楽しい気分になったのを覚えている。魔王がばれるかもしれない、殺されるかもしれない情況なのに、俺はすぐにそうやって、楽しいとか嬉しいとかになる。
はちみつ漬けのケーキは凄く甘くて、でもおいしい。レントで食べた時よりももっとずっと、おいしく感じた。気温が違うからかなあ。からっと乾燥して暑い気候に、この食べものはなんだか合致しているように思う。
レントだって寒くはないし、夏場はうだるような暑さになるが、うだる、というのでわかるように湿度はそれなりだ。まあ、日本の夏と比べたら充分乾燥しているのだけれど。
はちみつ漬けのケーキは、荒れ地近くが発祥なんだろう。ここで食べると、つくりかたに大きく差がある訳でもないだろうに、凄くおいしく感じる。いや寧ろ、ここのほうが新鮮な小麦粉やはちみつを手にいれにくいだろうから、その辺は不利な筈なのに、それでもこちらのほうがおいしい。
だいぶ味覚が恢復しているらしい。俺は右を見て、ほーじくんがケーキをちまちま食べているのを見て、なんだか安心した。ほーじくんの頬の赤みはだいぶひいている。
ニニくんが心配そうにしているけれど、ほーじくんへ話しかけようとしているのをネクゼタリーさんが遮った。ネクゼタリーさんの目はぞっとする程つめたかった。
はちみつ漬けのケーキがなくなると、お開きになった。
俺達は村へ泊まることになっているみたいだ。外に出ると、女性陣はヘジャブを被った女性の集団にひっぱられ、つれていかれる。カルナさん達は驚いた様子だったが、ユラちゃんはうすい胸をはり、偉そうにふんぞり返って歩いていった。
空を見る。西のほうにかすかに赤い光が見えるが、全体的には濃紫になっていた。もう日が落ちている。誰が云いだしたのかは知らないが、この村へ泊まるのは当然の判断だ。幾らか銀貨を支払えば、いやそんなことしなくても、村のひと達は歓待してくれるのだろう。
村に着いたのだ。ひとが居て、ある程度は安全が確保されているところへ辿りついた。ここから、どこへでも行ける。みんなは。
俺はどうしようか。ほーじくんが、俺が井に行きたいと思っていることを、わかってくれているのだろうか。




