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ミューくんは戻ってこない。ジーナちゃんも、ほーじくんも。
ユラちゃんは口ではああ云っていたが、お弁当をみんなと食べたいみたいで、傍らに置いたお弁当をちらっと見ては目を逸らす。
リッターくんとリオちゃんは、並んで倒木に座り、手遊びをしていた。ふたりとも両手を開いて、リオちゃんが歌いながら、指先をちょんちょんとつつく。歌が停まると、手を閉じたり、親指だけ曲げたり、親指以外を曲げたりしていた。勝ち負けがあるようで、リオちゃんが歓声を上げたり唸ったりするのでそれがわかる。
サキくんはひとり、立って、心配そうに湖の方向をうかがっている。俺はサキくんの近くまで行った。「サキくん、座ったら?」
「いえ、座ったら気分が悪くなりそうで」
サキくんは俺を見て、ぎこちなく微笑んでそう云い、湖のほうへ目を戻す。ここから湖は見えないが、サキくんは誰かがそこからやってくるのを、心待ちにしているのだろう。ミューくんを心配しているのだと思う。
俺はサキくんのせなかを、軽く撫でた。
「大丈夫だよ。宣言、こわくなかったんでしょ?」
「ええ、僕は、まったく平凡なので」
そんなことはないのに、サキくんはそう云う。「でもミューは特別ですから」
随分、心配なんだな。
俺はしばらくサキくんのせなかを撫でてから、ユラちゃんの近くへ移動した。ユラちゃんは俺を見て、肩をすくめる。
「さっきの、本気だからね」
「うん。ありがとう。でも、ほーじくんに迷惑かけたくは」
「わかってるわよ」
ユラちゃんは一瞬、歯をむきだしにした。いらいらしているらしい。それから、鼻に皺を寄せる。
しかし、表情が一変した。
「ねえマオ、あんた、ほーじのやつが心がわりしたら、わたしが婿にとってやってもいいわよ」
「え?」
ユラちゃんは顎を上げ、にっこりする。うすい胸を張る。
「あんた、料理はうまいし、素直だし、わたしにきちんと敬意を払うしね。わたしは優秀だから、どこで暮らしてもあんたひとりくらい養えるわ。勿論、あんたが裾野に居たいのなら、わたしも裾野に来てあげる。ここのほうが、研究につかえそうな資料も多いし。それにもしわたしがいやなら、きょうだいが何人か余ってるわ。誰でも融通してあげるから、もしなにかあってもばかなこと考えないのよ」
どうやら、ユラちゃんなりに、俺をはげまそうとしているらしい。俺はしかし、笑ってしまった。ユラちゃんがこちらを睨む。
「なによ?」
「ううん。ありがとうユラちゃん。じゃあ、考えとく」
「そうよ、ちゃんと考えなさい」
俺が笑いながらもきちんと話を聴いているとわかったみたいで、ユラちゃんは溜飲を下げたらしかった。




