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ユラちゃんは顎を上げた。「ディファーズの殿方は、規律を乱すことをよしとしないのではありませんか。フォージ卿がばつの悪い思いをするのは、わたくしは耐えられません」
「ほう」
ティーアファンダード卿は、面白がるみたいに云って、もうひとりの神おろしを見る。どこの地域でもだが、ややこしくて舌を嚙みそうな名前ばかりで、覚えにくい。
「ゆるしは得ているな?」
「はい、ティーアファンダード卿。ファバーシウス卿の宣言中、それが見える距離で待っていてもよいと」
「だ、そうだ、お嬢さん」
ティーアファンダード卿はユラちゃんを見、どうだ? とでも云うように、少しだけ首を傾げた。
ユラちゃんは平然と、丁寧にお辞儀をする。「失礼をいたしました」
「いや。お嬢さんが優しい気持ちから、我慢できずに意見をしたのだ。しようのないこと。わたしもあのように云うべきではなかった」
「いいえ、差し出がましい真似をいたしました。どうぞ」
ユラちゃんは頭を下げたまま、道をあけた。ティーアファンダード卿は横柄に頷いて、歩き出す。ほーじくんも、もうひとりの神おろしも、それに続いた。
ユラちゃんには感謝しなくちゃいけない。ふたりが話している間に、俺とほーじくんは数回、目を合わせていた。ほーじくんは不安そうだったけれど、俺が頷くと、目が少しだけ笑った。
ユラちゃんのおかげでそれだけの時間ができたのだ。
「いけ好かないわね」
三人の姿が消えると、ユラちゃんはそう吐き捨てた。腹だたしげに切り株に腰掛けて、足首を重ねる。リオちゃんが感心したみたいに云った。
「ユラちゃん、凄いのね」
「そうでもないわ。わたしだってばかじゃないんだから、とりつくろう術は身につけてるの。でも、ああ、疲れた」
「ご苦労」
「あんたね」
リッターくんの返しに嚙み付きそうになったユラちゃんだが、ふんと鼻を鳴らした。「どーでもいいわ、あんな連中。マオ、気にしないのよ」
「うん。気にしない」
「あんたは素直ねえ」
ユラちゃんは後ろに手をつき、首をそらせた。「もう少ししたら、お昼、食べましょうよ。三人が戻ったら、一緒に一時下山するんだから」
「そうね」
「ねえリッター、あんたわたしの云うことききなさいよね」
「場合による」
ユラちゃんはちょっとだけ笑った。「あんたならやるわよ。あんたがマオをさらって、一緒にしたまで行くの。いつかと逆よ。それで、マオとほーじを井までつれていって、わたし達六人が立ち会って、書類をつくってしまうのよ。二度とあんな舐めた真似をさせないようにね」
「わかった」
リッターくんはふたつ返事で請け負い、ユラちゃんは切り株の上に横になりながらもっと笑った。




