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「おはよう」
ジーナちゃんが広間に這入ってきて、うっすら苦笑いしながらミューくんの隣へ座った。奉公人が厨房から、お膳を持って出てくる。メイリィさんは、ミューくんに誘われたけど断って、厨房でご飯中。
俺は粒マスタードをたっぷりつけた腸詰めを、もぐもぐしていた。「おはよ」
「ふたりで食事だなんて、妬けるわ、ミュー」
「俺に? マオさんに?」
ジーナちゃんのからかいに、ミューくんもからかいを返し、ジーナちゃんは肩をすくめた。
ジーナちゃんがお祈りをして、食事をはじめた。お匙の裏っ側でかちんとゆでたまごにひびをいれ、器用にからをとりのぞいて、中身を掬っている。ゆでたまごは半熟よりはかたゆでに近いくらいのゆであがりだ。俺はかたゆでがいいので、かたゆでをもらってむいて食べている。
「あら、おいしいたまごね」
「そうだよね」
ゆで加減がうまいのもあるだろうけれど、それだけじゃなく、味が濃くて変な臭みのないたまごなのだ。これならちょっと火が通りきっていなくても食べられるかも。……無理かな。
多分、たまごを買う農園が、いつもと違うところなんだと思う。御山は入山者に、できるだけ快適な環境を提供することを至上命題としている。なので、食材はどれも最高級だし、それよりもいいものが見付かったらそちらに鞍替えするのははやい。
「わたしもこれくらい、上手にゆがけるようになりたいわ。ゆでたまごって、ごまかしがきかなくって」
それはそうだ。もとの世界なら、温度計とキッチンタイマーをつかえば、誤差は成る丈少なくできるけれど、こちらにはそういうものがない。温度も時間も感覚だ。時計はあるけれど、宗教的な理由で、あまり普及していない。家庭内で見たことはないかもしれないな。まちなかに唐突に、柱時計みたいなのが設置してあることはある。
ジーナちゃんが、身をのりだすみたいにして、ミューくん越しに俺を見た。
「マオ、今度、くわしく教えて頂戴」
「え? えーと、俺、得意じゃないよ、ゆでたまご」
「マオに教えてもらいたいの」
ミューくんが俺を見て、軽く首を傾げる。
実際、俺は勘でゆでたまごをつくってるし、こちらに来てからは色々こわくてかたゆでしかつくったことがない。そもそも、半熟たまご自体、食べるのが得意じゃない。ほとんど火が通ってる、くらいじゃないと、たまごって食べにくいのだ。
でも、期待がにじむジーナちゃんの表情を見て、断るという選択肢はなくなった。
俺は微笑んで、頷く。
「わかった。時間ができたら、一緒に練習しよう。俺、ほんとに得意じゃないからね」




