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外は明るい。今日は快晴だ。
「マオさん、おはようございます」
神聖公国寮の厨房へ這入ると、ミューくんが料理人の治療をしていた。俺は面喰らって、ちょっと身をひく。
メイリィさんが小首を傾げた。「なにか……?」
「ああ、彼、指を幾らかはさんだんですよ。鍋と鍋で」
聴いただけでも痛そうだ。思わず顔をしかめ、治療されている料理人の近くまで行く。メイリィさんもだ。
「大丈夫です?」
「うん」料理人は苦笑いでそう答え、それからミューくんを見る。「申し訳ありません、ファバーシウス卿」
「たいしたことじゃあないですよ。はい、おしまい」
ミューくんは料理人の、血まみれの手を優しく叩いて、にっこりした。
ミューくんは朝のお祈りのあと、寮のまわりをぐるっとひとまわり散歩して、たまたま厨房の傍を通りかかったそうだ。その時に、なかから小さな悲鳴が聴こえ、とびこむと、料理人が重たいお鍋同士に指をはさまれて、別の料理人達で救出しているところだった。
お鍋、といっても、アルミやステンレスの比較的軽いものや、衝撃で割れる土鍋ではない。分厚くて平たい鉄鍋だ。平たくて把手が一本、重ねて置くことが簡単なのでそうしているのだが、その山をふたつに分けようと途中に手をさしいれたら思ったよりも重くて指をはさんだ、ということらしい。
勿論、ミューくんは落ち着いていて、別の料理人達が怪我をした料理人を救い出すと、怪我した手をタオルで拭いてあげながら椅子に座らせた。それから、優しく声をかけつつ治療したそう。
「もう癒し手みたいだね」
俺が感想にもなっていないような感想をもらすと、広間の椅子に座ったミューくんは苦笑した。ミューくんは今から朝ご飯を食べる。「おかげで、ジーナやリッターみたいに心配する必要もありませんよ。俺は宣言しても進歩がないってことですから」
「そんなことないよ、癒し手になったら癒しの力が増えるんでしょ?」
「そうはいっても、もうふたつありますからね」
メイリィさんが、厨房からお膳を運んできた。お、神聖公国寮、今朝はチーズいりのコーンポリッジ、粒マスタードを添えたボイル腸詰め、ゆでたまご、きゅうりとキャベツのサラダ、ポレンタっぽい黄色いパンに、いちごジャムいりのヨーグルトだ。うわー、うまそう。
俺が運ばれてきたお膳に目をかがやかせたからか、ミューくんは隣の椅子をひいた。「マオさんもどうぞ」
「えっ、だめだよ、俺はあの、あとで勝手に食べるから」
「不安なので、一緒に食事をしてほしいな」
ミューくんはまったく不安に思ってなんかいないだろうに、そんなふうに云って笑った。




