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キーラさんがあおざめた顔で、ファラワさんへ近付いていった。「大丈夫なの? こんなはやくに、出歩いて」
「うん。ごめん、キーラ。昨日のご飯もおいしかったけど、あの、いい匂いがしてるから、気になって」
ファラワさんは困った眉だけれど、キーラさんに向ける目は優しい。それにしても、また、体重が落ちたのじゃないだろうか。チュニックの袖口から覗く手首が、腕が、折れそうに細い。
キーラさんはファラワさんの手をとって、手の甲を額におしあてた。そのあと、何回か口付ける。ファラワさんは微笑んだ。
「大袈裟だよ」
「そうでもないと思うな。ああ、ファラワ、マオがつくった料理の余りがある。一緒に食べよう」
「いいの」
「勿論」
余ったものはキーラさんにあげる約束だったのだ。それに、ファラワさんが自分からすすんで食事をしてくれるのなら、俺に異論はない。だから口ははさまない。
アマラ先生と目が合った。あちらは一瞬睨んでくるが、俺は会釈する。
「……おとといは、山羊のご飯を、ありがとう。お礼を云うべきだと思って、来た」
「あ、はい」
俺ははっとして、云う。「いえ、お礼ならズフダリフ先生に。アマラ先生に食べさせたいとおっしゃってましたから」
「それなら聴いてる。それでも、一応、つくった君に礼を云うべきだと思ったんだ。一応ね」
アマラ先生は素っ気ない。このひとは、俺とは徹底的に波長が合わないらしい。でも、かまわない。元気で居てくれたら、それで。
俺とアマラ先生のやりとりなんておかまいなしで、キーラさんはまだファラワさんの手に口付けている。どうやら、病気や怪我から快復したひとに対するお祝いらしい。ファラワさんはくすぐったそうだ。「キーラ、もういいよ」
「だめ」
「こそばゆい」
「あの……あ」
声に目を遣ると、出入り口の近くで、ルクトくんがぼーっと立っていた。顔色はよくないし、頬が頬がこけているが、目に光がある。「いい匂いがするから……あの、この匂いのやつ、食べてもいいですか?」
俺は胸がいっぱいで、言葉が出なかった。
ルクトくんはキーラさんに任せ、俺はメイリィさんと一緒に、外への通路へ向かった。ちまきの威力、凄い。とり肉とか栗とかはいってて、いい香りだもんねえ。食べたくなるよ。
「ご機嫌?」
隣を歩くメイリィさんが云い、俺は彼へ笑みを向けた。「凄くご機嫌だよ」
「そう」
頷くメイリィさんも、満足げだ。なんだか今日は、とてもいい日な気がする。いろんなことがどれもうまくいくような、そんな気が。




