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「ねえマオ、これもっとないの?」
ユラちゃんが、小皿を大切そうに両手で抱えている。小皿の上には、かじりかけのチョコレートがあった。
俺は小さく頭を振る。「ごめん、ここにある分で最後なんだ」
実際のところ、こんなに残っていると思っていなかったのだ。もうあとひと粒ふた粒だろう、と考えていたが、出してみたら丁度七粒あった。だから、みんなにあげようと思った。
ユラちゃんは口を尖らせたが、きついことは云わない。
「そう。残念ね。見た目はよくないけど、こんなにおいしいお菓子、めったにないわ」
「メイナムの丸薬みたいだものな」
ミューくんがあっさりと云い放った。メイナムからできた薬って、チョコみたいな色になるのか。騙されないように気を付けないと。
それでかもしれない。みんな、俺がチョコをすすめるまで食べなかったし、すすめても遠慮がちにほんのちょっぴりかじる子がほとんどだった。口に放り込んだのは、リッターくんだけだ。
リッターくんはチョコを溶かして味わっているらしい。飴をなめているように、口許が動く。「うまい」
「そうね、こんなもの、食べたことないわ」
そうだよな。それが、この世界のひとつの欠点だ。こちらにはチョコレートも、それに類似したものもないのである。俺がどれだけ、深夜のホットチョコレートを恋しく感じているか、彼らにはわかるまい。
みんな、口に合ったみたいで、おいしいと云ってくれた。でどころを訊きたそうなユラちゃんとリオちゃんだが、なにも云ってはこない。彼女達は、結構、気を遣うタイプなのだ。
ほーじくんは、かじりかけのチョコレートを見て、考え込んでいる。そういえば、甘いものはあんまり得意じゃなかったっけ、ほーじくん。
隣でちょっとだけうつむいた彼の顔を、覗きこんだ。「ほーじくん、おいしくなかった?」
「ううん」
ほーじくんはこちらを見て、数回、瞬く。
「あの……そうじゃなくて」
「……うん?」
「マオ……食べてないから」
「ああ」
そうか、それを気にしてたんだ。
俺は微笑んで、ほーじくんのせなかを軽く叩いた。「気にしなくていいよ。俺は今まで食べてきてるから」
「でも、マオ、……これ、マオにあげる」
ずいっと、ほーじくんは俺に小皿をさしだす。その上には、半分になったチョコレートがのっている。
ジーナちゃんが微笑んだ。
「わたしも」
「あ、俺も」
「リオも」
「僕のもどうぞ」
「わたしのもあげるわ」
「みんな」
やばい。声が出ない。どうしてみんな、こんなに優しいんだろう。
ひとり、リッターくんだけはその流れにのれず、不満そうにしていたが、なにか思い付いたのかのか立ち上がった。「マオ、まだ残っているから、口移しで」
「黙りなさいリッター!」
ユラちゃんが一喝し、一瞬あとにみんなの笑い声が弾けた。リッターくんはなぜ笑うのかわからないみたいで、きょとんとしている。




