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ミューくんはリッターくんから離れ、大口を開けているサキくんに小走りに近付いて、飛び跳ねて抱き付いた。サキくんは反射みたいに、両腕でしっかり、ミューくんを抱きしめる。だが、ミューくんがリッターくんに抱き付いたのがショックだったのか、サキくんはそのままよろけ、しりもちをついた。
そうなっても、ミューくんはサキくんをはなさない。くすくすと、楽しそうに笑っている。「サキもお祝いに来てくれたんだな」
「え?」
サキくんは戸惑い気味だ。左手を地面について、困った顔になっている。「あの、ミュー?」
「今日はマオさんが特別おいしいものをつくってくれるんだ。一緒に食べよう」
ミューくんはサキくんから少しだけ離れて、リッターくんへ満面の笑みを向けた。「リッターもな。なんならユラも呼んでこいよ。ああサキ、リオも呼んだらどうかな」
「え、あの、ああ、……そうだね?」
サキくんは考えることを放棄したらしい。そう云って、にっこり、屈託なく笑った。
神聖公国寮は、よっつの寮のなかで最も排他的だ。当然のように、他寮の学生は立ち入れない。勿論、サキくんリッターくんも例外ではない。
といっても、それは寮舎だけの話だ。そのまわりの林に関しては、さすがに神聖公国寮生もすべてを管轄下に置いてはいない。ていうか、そんなの不可能だし。
屋内でのお食事は無理なので、神聖公国寮舎のお庭の、ひらけたところにじゅうたんを敷いた。ジーナちゃんが要望を出したので、俺は本来の業務ではなく、ジーナちゃん達にご飯を用意するというお仕事をできる。
といっても、時間が限られていて、今から調理をすることはできない。なので厨房と、神聖公国寮の食器をかりて、盛り付けるだけにした。
ほとんどの学生さんが居なくなった寮では、お仕事をしている奉公人が少ない。厨房には、先輩ふたりしか居なかった。今の人数だったらふたりで対応できるから、ほかの奉公人は、別のお仕事にまわっているそう。派遣された証人達や神おろし達の見張りや、神おろし達の為の食糧を運ぶなど、通常ではない業務が沢山あるのだ。
ひろい厨房に、少ない人数で、俺はふたりに見られることなく作業を終えた。
ジーナちゃんに、特別なごちそうを頼まれたのだ。神弓なんて、おめでたいのはこちらの世界の人間じゃない俺にだってわかる。
だから、特別なものを、包装を解いて、綺麗な木製のお皿に盛りつけた。これで完全に、ストックがなくなったけれど、お祝いなんだからいいのだ。
俺はチョコレートを盛ったお皿を、プラチナのトレイへのせた。




