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ズフダリフ先生が可哀相なので、俺はじゅうたんをしいて、食事の席を整えた。あつあつほかほかの山羊の炊き込みご飯に、丸焼きじゃないけど山羊の骨付きロースト、豆類・スクワッシュ・ピーナツとアーモンドのぴりからなトマト煮込み、デーツのジャムのあんパン、というメニューである。
スパイスをきかせたお茶を淹れたところで、湖のほうを向いてそわそわしていたズフダリフ先生が、じゅうたんの上に並んだ食糧に気付いた。目をかっと瞠って、ぴょんとじゅうたんにとびのる。俺は苦笑いする。「どうぞ。護衛のお礼です」
「いいのか? 本当に?」
「おかわりもありますよ」
四月の雨亭では裾野人ほいほいのメニューだったし、こっちでも食べるひと居るかなと思って、何度かつくってストックしていた。けど、一般寮の学生さん達は、実際のところ裾野以外から来ている子も多くて、山羊の炊き込みご飯はいまいちのうけだったのだ。なので、収納空間に幾らかある。
ズフダリフ先生は嬉しそうににっこりした。が、ちょっと表情が曇る。
「アマラにも食べさせてやりたいんだが、もらってかえってもいいか」
「それなら、俺があとでアロさんにでも預けます」
ズフダリフ先生は安心したみたいに頷いて、早速食前のお祈りをはじめた。
「おいしそうなものを食べてますね、ズフダリフ先生」
ミューくん達が戻ってきたのは、ズフダリフ先生が山羊の骨をかじっている時だった。先生は器用に骨をかみくだいて、髄をすすっていたが、はっとして手を下ろした。
ミューくんはくすくす笑う。なんだかとても、機嫌がいい。ジーナちゃんはぼんやりしていて、でもミューくんが笑ったのに反応したらしく、微笑んだ。
ラスターラ卿の姿も、傭兵協会から派遣された証人の姿もない。補助教員がふたりで、ミューくん達をここまでつれてきたらしい。
俺は立ち上がった。「宣言、おつかれさま」
「ええ」ジーナちゃんは肩をすくめる。「疲れたわ」
「君は凄いからね」
ミューくんが唐突にジーナちゃんを誉める。ズフダリフ先生はローブで手を拭う。ミューくんがにこにこしたまま、先生の傍に両膝をついて、先生の手をとった。「水花」
「ああ、ありがとう」
「いいえ。でも、やけどはあとに響きますからね。おいしいからって、あんまり熱いものを無理に食べないでください」
ズフダリフ先生の目がまるくなった。当然だ。普段から優しいミューくんだが、無謀な行為での怪我にはしっかりと苦言を呈する。ところが、今は優しいばっかりの言葉だった。ミューくんの機嫌は、最高にいいみたいだ。




