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「やあ、ミュー。それにエンバーダート嬢、宣言おめでとう」
湖の傍では、笑顔のラスターラ卿が迎えてくれた。前は「ジーナ」と呼んでいたけれど、公の場ではそう呼ばないらしい。
最近、奉公人達がラスターラ卿にと、お菓子やなにかをさしいれしている。その為か、ラスターラ卿はかなり機嫌がよく見える。
奉公人達は業務がたてこんでいて、忙しいことこの上ないのだが、ラスターラ卿になにかさしいれてお礼を云われるのが心の潤いになっているのである。端的に云うと、ラスターラ卿の嬉しそうな顔とありがとうが可愛い。
ミューくんとジーナちゃんが、腕を組んだままでお辞儀した。まるで、結婚式でも挙げるみたいだ。
ラスターラ卿はほっとしたらしい。
「あまり緊張してはいないようだね? エンバーダート嬢」
「はい。ミューが居てくれますし、あの……フォートさまがはげましてくださいました」
俺はふきだしそうになり、ミューくんが咳込んだ。ミューくんも笑いそうになったんだと思う。まあ、あんまり嘘でもないけどさあ。実際、ジーナちゃんが元気になったのは、フォートさまとアルクスさまのおかげだし。
ラスターラ卿が首を傾げた。
「カンドらしい……ということはないな。彼はあまり、他人に興味を持たない子だ。なにか、心境の変化でもあったのかな」
ミューくんの唇が震えている。
傭兵協会から派遣された証人が、こほんと咳払いした。それで、ラスターラ卿がはっとする。
「ああ失礼、長話はよくなかった。では、行こう。先生がたも待っていらっしゃる」
「はい」
ミューくんが笑いをこらえながら云い、ラスターラ卿がもう一度首を傾げた。
俺は居残りだ。今日は、ズフダリフ先生と一緒。
なんだけど、ズフダリフ先生はジーナちゃんの宣言に立ち会いたい、というか、職業加護の検証に関わりたかったみたいで、そわそわしている。
「気になるなら、先生も行ったらどうですか?」
「冗談じゃない、俺は君の護衛を仰せつかってるんだぞ。ここから離れて、君がつれさられたりしてみろ。俺はエルセイユ先生にたたきのめされて、御山から追放される」
ありゃ。
二・三回、さらわれた経験があるので、大丈夫ですよ! とも云えない。俺は首をすくめた。
「すみません」
「ああいや、君の所為じゃない。俺にはアマラが居るから君によこしまなことはしな……と、とにかく、俺は君に対しては無礼を働かないと、そう信頼されているということだから、俺はこの任務を誇るべきなんだ」
ズフダリフ先生は、自分にいいきかせるみたいにそう云って、数回頷いた。




