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ふたりがいなくなり、三十秒くらいして、ジーナちゃんがはーっと息を吐いた。「驚いた。フォートさま、あんなに情熱的だったのね」
「あ、ああ、ほんとに、驚いたよ俺も」
ミューくんが掠れた声を出す。俺はまだ言葉が出ず、頷くだけだ。すげえ修羅場を目撃してしまった。
いやいや、アルクスさまの気持ちはわかる。フォートさまの大スキャンダルである。フォート家の男児が、ロアの一般市民と恋愛なんて、こちらのひとの感覚にすればめちゃくちゃな醜聞だ。フォートさまを大切に思っていればいるだけ、隠したくなるものだろう。それが、フォートさまには、逃げに見えている。そういう行き違いがあるだけだ。
ミューくんが心配そうにジーナちゃんを見た。「ジーナ、気分は……」ミューくんは不思議そうに言葉を切ってから、ちょっと笑った。「悪くないみたいだな?」
ジーナちゃんはきょとんとする。それから、ぎこちなく頷いた。
「ええ……ああ、そうね。あのふたりを見たら、宣言くらいなんでもないように思えてきたわ」
アルクスさまには気の毒な話だが、秘密恋愛中のふたりをたまたま発見してしまった結果、ジーナちゃんの緊張が解れた。
ふたりのようなとんでもない綱渡りな恋愛をするのに比べたら、一瞬ですむ宣言にそこまで怯える必要はないと思えたらしい。
いやまじで、アルクスさまとフォートさま、いい仕事だわ。ミューくんがあれだけ宥めてもジーナちゃんは気分が悪そうだったし、ミューくんの特殊能力について検証しようとする先生がたへの激しい憎悪をまで見せていたのに、今はつきものが落ちたようにさっぱりした表情で、ミューくんと腕を組んでのんびり歩いている。
「フォートさま、大丈夫かしら」
「気分は悪そうだったけれど、あの言葉はただの脅しさ」
緊張は消えたものの、今度は心配そうになっているジーナちゃんに対して、ミューくんは機嫌よく返す。ジーナちゃんが平常心に戻ったので、嬉しいようだ。
「かけひきだよ。フォートさまには自覚はないみたいだけど」
「アルクスがどう思うか……」
「ああいうところも好きで、付き合いをしてるんだろう。アルクスは困ったようだったけど、嬉しそうでもあったよ」
「え、ほんと?」
俺には、ひたすら困っているみたいに見えた。
ミューくんは俺へ向いて、くすっとする。「マオさんに叱られたほーじと一緒ですよ。不甲斐ないと思いつつも、かまってもらえて嬉しいんだ」
うっ、思わぬところから流れ弾をくらった。俺はもぐもぐと、なにか弁解みたいなことを云い、ちょっとだけあしをはやめた。
感想ありがとうございます。はげみになります。




