3218
「こ」アルクスさまが喋った。「このことは内密に」
声が震えている。フォートさまがはっと、アルクスさまを見た。ミューくんは目をぱちぱちさせ、ジーナちゃんは動かない。
アルクスさまは焦った様子で続ける。
「わたし達がふたりで居ただなんて知れたら、どんなことになるかわからない。それくらい君達もわかるだろ」
「は……」
ミューくんがなにか云おうとしたらしいが、言葉にならず、口がぱくぱくしているだけだ。俺もなんにも云えない。
そもそも、奉公人だから口を出すべきことじゃない。
それは大前提として、だとしてもこのふたりがその、恋愛関係だったなんて、まったくもって知らなかったし思いうかべもしなかった。その驚きで、声が出ない。
だって、フォートさまって一番ディファーズっぽいというか、ほかの寮の学生さんに対してあたりがきついらしい。授業で別寮の学生と一緒くたにされたら抗議したりさあ。
そもそも、フォート家といえば、神聖公を輩出している家柄である。好き勝手に恋愛できる立場ではない。
相手がディファーズの上流階級なら、わかる。それなら充分考えられる。ディファーズの上流階級同士なら、同性が相手でもわからんでもないな。シアイルの有力貴族だったとしても、ぎりぎり、理解できなくもない。
シアイルの貴族は昔の王国時代からの家柄もあるし(叙勲だか叙任だかはし直されたみたいだけど)、ディファーズとシアイルは仲好しではないが、お互いの国家の家柄とか血統を認めている。だからこそ、アーフィネルくんがリッターくんのお家の養子になってからルモ家に婿にはいるなんて離れ業ができたのだ。
だが、ロアの、しかも新興貴族ですらない一般家庭出身のアルクスさまと、いちゃいちゃしているなんて、訳がわからない。
「ともかく、内密に」
アルクスさまが重ねて云う。と、フォートさまが顔色をかえた。電光石火の早業でアルクスさまの頬っぺたをひっ叩く。拳闘家志望に相応しく、逞しい体をしているアルクスさまだが、フォートさまの強烈な一撃でよろけた。
フォートさまはぶるぶると震えながら喚く。「エダーク、君はそれくらいの気持ちで僕を……僕の……」
「カンド」
「ぼ、ぼくは絶対に、君を逃がさないからな。せ、せ、責任は、とってもらう。それが無理だと云うんならば、僕にだって、か、考えはある!」
最後は鼓膜が破れそうな金切り声になっていた。フォートさまは、はあはあと喘ぎながら、踵を返して薮のなかへとびこんだ。アルクスさまが泣きながらそれを追いかける。「待ってくれカンド、頼むから短気を起こさないで……」
声が聴こえなくなった。




