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ミューくんが魔法でお水を出して、小さな虹をつくった。ジーナちゃんが微笑んでそれを見ている。ミューくんは満足そう。
俺はふたりから少し離れてつったっていた。端から見ると、仲睦まじいカップルだ。
「エンバーダート嬢」
ラウトさんが走ってきた。「湖へお越しください」
ミューくんがジーナちゃんの手をとり、燕息をかけた。
俺達は神聖公国寮から離れ、東へ向かって移動している。噴水まで行って、そこから北へ折れ、しばらくしたら再び西へ行く。シアイル寮の近くを通るという手もあるが、学生さん達は基本的に、大きな道を優先して歩く。小径をつかっているのは奉公人だからだ。誇り高い入山者が、奉公人と同じ道をつかいたがらないのは当然である。
それに、今回は宣言で湖へ用があるのだ。裏からこそこそ這入るように見える真似をしたくないのは、理解できる。
誰も喋らず、風で木々が揺れる音がやけに耳につく。先程まで雲が多かった空には太陽がぎらぎらかがやいていて、俺は手庇してちょっとだけ空を見た。17日もこれくらい、天気がよかったらいいけれど、どうなるだろう。
ふたりのあしどりは重い。というか、ジーナちゃんの歩みが遅い。宣言がこわいのだ。
俺はなにも云えない。ミューくんも、厳しいことも優しいこともいわない。ジーナちゃん当人がどうにかして折り合いをつけるべき問題だと、そう考えているのだろう。俺もそう思う。ジーナちゃんは決して弱くない。だから、大丈夫。
噴水の辺りで、まだ御山に残っている学生さん達と遭遇した。驚いたことに、フォートさまと、ミューくん達の同期で連邦寮生の……ええと、青白い肌、スカイブルーの短い髪、灰色の瞳。唇とか鼻とか耳にピアスが沢山。エダーク・アルクスさまだ。
アルクスさまはまだ宣言が終わっていない。適職が拳闘家だから、宣言順がまだまわっていない。セロベルさんが云っていたけれど、拳闘家はめずらしい職業である。めずらしいものが後にまわされるのが、宣言の不文律らしい。
そのアルクスさまと、この間俺を殺しそうな目で見ていたフォートさまが、べったりくっついて楽しそうに笑いながら、薮のなかから出てきたのだ。
もともと青白いアルクスさまが、まっさおになった。フォートさまは口を半開きにしている。だが、ふたりはくっついたまま離れない。
俺達三人は立ち停まっていた。ミューくんも口が半開きだし、ジーナちゃんは片手で口許を覆ってかたまっている。俺は、そういえばフォートさまは宣言が終わったのに、まだ一時下山していなかったな、と考えていた。




