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それに、ジーナちゃんには、ミューくんではない好きなひとが居る。
ミューくんがそれに気付いているのか、いないのか、わからない。けど、ミューくん本人は、ジーナちゃんが自分と結婚するのはだめだと思ってる。妥協した結婚はジーナちゃんの為にならないと考えているのだ。
その辺、本当に大人だよなと思う。ミューくんは、ジーナちゃんをひとりの人間として見てるし、敬意を払っている。ジーナちゃんも、ミューくんを大事に思ってる。ただ、ふたりが相手を思いやる気持ちは、恋愛じゃない。親愛だ。
ミューくんは、ジーナちゃんが好きな相手が誰かを知ったら、応援するだろうか。ディファーズの価値観では考えられないような相手だけど……。
「マオ、どうかしたの?」
ジーナちゃんが心配そうに云う。「ぼんやりしているわ」
「あ、ごめん。俺、ぼーっとしちゃってて」
にこっとした。ジーナちゃんは不審そうだが、それ以上何も訊いてこない。
ミューくんが杖を元気よく振って、ジーナちゃんへ云った。
「なあ、それにしても静かだな」声は機嫌がいい。「煩いひと達がだいぶ減った」
「ミュー」
「ほんとのことを云ってるんだよ」
ミューくんは鼻を鳴らし、杖で薮を叩く。「俺が毎日、どれだけ煩わされたか、君は知ってるだろうジーナ?」
ジーナちゃんはなにも云わないが、くいっと肩をすくめて、どうやら同意を示したらしい。
ディファーズの上流階級は、あちこちで親戚だったり婚姻関係だったり、入山試験を受けたのが同年で仲好しだったり、同時期に入山していて仲好しだったり……と、複雑怪奇なのである。冗談じゃなく、Aさんの奥さんのお兄さんのBさんと、Aさんの親友のCさんが、不倶戴天の政敵、とか、あるのだ。
だから、ディファーズ寮内の人間関係やパワーバランス、ヒエラルキーも、どうも俺には把握できない複雑さである。位はそうでもないけど古くからのお家で下にも置かない扱いをされている子も居れば、ヒカリ先生みたいに、位があるのに一般家庭出身というだけで煙たがられていたひとも居る。
ミューくんは記憶力がいいから、それらを覚えているのだろう。祇畏士の名前も、あったことがあるひとのものは完璧に覚えているみたいだった。位のあるひとのお家についても、相当しっかり把握している。
ミューくんは癒し手志望で、魔物討伐の遠征にも沢山参加してきた。それは、癒し手の追加の職業加護の為らしいけど、そのついでにいろんなことを覚えるのは、ミューくんが生真面目だからだと思うんだよな。
だから、ふたりの婚約がどうなるのか、尚更心配なんだけど。




