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ミューくんが優しく、ジーナちゃんの腕を叩いた。「俺のことでそんなに腹をたてなくていいよ」
「わたしは、あなたが実験につかわれるのは、気にいらないと云っているの」
ジーナちゃんの声はまだ尖っている。かなり、怒っているらしい。
ミューくんはパンをとってちぎり、バターレモンこしょうソースをしみこませて食べる。
「俺は平気だ」
「わたしが平気じゃないわ。ねえミュー、あなたが……協力する必要は、ないと思うの」
「必要はないかもな。でも俺はやるよ。気にはなるしね」
ジーナちゃんは下唇を噛み、俯いた。ミューくんは少しだけ、申し訳なそうだった。
ふたりの食事が終わり、俺達は寮舎の外に居た。ユラちゃん達の時と同じで、時間がはっきりせず、待っているのだ。俺達は意味なく歩きまわる。
ミューくんも、ジーナちゃんの宣言に付き添う予定だ。だから、一緒に居る。ジーナちゃんと腕を組み、杖で藪を打ち払っていた。ミューくんは「もしもに備えて」、今日は短めの杖を持っている。
ジーナちゃんが申請したので、ミューくんはずっと、ジーナちゃんの傍についていられるらしい。湖までついていけるってこと。
学生さんだから、ってことじゃなく、一応ふたりが婚約状態にあるから、みたい。
色々とごたごたは続いているのだが、ミューくんとジーナちゃんの婚約状態は維持されている。エンバーダート家は絶対に婚約を破棄させまいと動いているし、ファバーシウスはとりあえずほかにいい条件の子が居ないのでジーナちゃんを追い払わない。そういう情況だ。
そりゃあな。ジーナちゃんはめずらしい特殊能力を持っていて、入山者で、お家は位もお金もある。ファバーシウス家はエンバーダート家に対して複雑な思いで居るようだが、領地や裾野邸をとりかえしたからって、今後も経済的にいい状態が長く続くとは限らない。癒し手はディファーズに居る限り、大きく儲けられはしないのだ。だから、相当な額の持参金が期待できるジーナちゃんを、すぐに放り出すことはできない。少なくとも、同じくらいのものが期待できる候補が出てくるまでは、ジーナちゃんはミューくんの許嫁で居続けるのだろう。
いやな話だよな。ふたりを利用しようとしている人間が周囲に多すぎて、ふたりとも疲れ切っている。このままじゃあ、ふたりにとってよくない結果になるかもしれない。本当に仲が好いのに、それがまわりの所為で、変なふうにこじれないといいけど。
誤字報告ありがとうございます。助かります。




