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ミューくんはちょっと困ったみたいな顔をした。
「ジーナ、君の弓の腕前は、エルセイユ先生にも誉められただろう」
「それは、弓を練習した期間に比べれば、上手だという意味だわ。キオ卿やターカック嬢にはかなわないもの」
「職業加護がそれを補ってくれる。だからこその狩猟士だろう?」
「戦士になって、体力を増やせば、剣をもっとうまく扱えるのに」
「今以上にうまいなんてことは無理だね。もうほかの誰もかなわないくらいうまいんだから」
ミューくんがそう云うと、ジーナちゃんはちょっとだけ笑った。顔を上げると、彼女の下まぶたがうっすら黒ずんでいるのがわかる。昨夜、よく眠れなかったのかもしれない。
「そうね、ミュー。わたしは誰よりも剣をうまく扱える」
「自覚してくれて助かるよ。納得したら、弓も一番になる為に、ちゃんと食事をとってくれ」
「ええ、あなたの云うとおりにするわ、ミュー……」
チキンステーキにバターとレモンこしょうのソースをかけたもの。キャベツと冬瓜のスープ。白くてふわふわのパン。お花を閉じ込めたゼリーに、キャベツの醤油漬け。それから、レモンメレンゲパイ。
ジーナちゃんはいつもより食が細かったが、食べようとはしていた。ミューくんはジーナちゃんの様子をうかがいながら、一緒にゆっくり食べている。俺はふたりのテーブルの近くに立って、お茶のおかわりを淹れたり、お喋りに参加したりしている。
「わたし達は、特殊能力を甘く見ていたのね。あなたの」
「そうかな」
ミューくんはチキンステーキを器用に切って、口へ運ぶ。「俺の特殊能力は、そんなたいしたものじゃない。君も知ってるだろ」
「わたしには、あの特殊能力は、忌まわしいものだわ」ジーナちゃんの声が尖る。「それを無意味に試そうとするのなら、先生がたであっても、わたしはゆるさない」
ジーナちゃんの声にも表情にも、憎悪のようなものがにじんでいて、俺はしゃっくりを飲み込む。ジーナちゃんがそんなふうに喋るのは、はじめて聴いたかもしれない。
彼女はそもそも、感情をおもてに出さないタイプだけれど、最近は微笑んでくれたり、やわらかい表情を見せてくれたりしていた。それに、哀しそうだったり、困っていたり、傷付いたようなのは見たことがある。そのたびに、心が締め付けられるように可哀相に思う。
でも、こういう……心の底からなにかを憎んでいるような声ははじめて聴いたし、なにかを恨むような表情も、今まで見たことがなかった。それで、驚いてしまったのだ。




