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「わたしは別に、他人にどう思われてもいいし、結婚だってするつもりはないもの」
ユラちゃんが鼻を鳴らす。肩越しにこちらを見る表情はかたい。「もし家に迷惑だというのなら、縁を切ればすむわ。そもそもわたしは跡取りでもなんでもないし」
「ユラ、そういうことを云うものじゃない」ミューくんが哀しそうに顔をゆがめた。「ああ、口出ししたのは悪かったよ、その、君の研究についてさ。邪魔するつもりじゃないんだ」
ミューくんは一瞬口を噤み、それから云う。
「でも、来年、下山試験を終えてからでも、遅くはないんじゃないか? 君なら教員になるのなんて、楽々だろ。成績は抜群だし、論文を幾つも書いて評価されてる」
「教員になれば、閲覧も楽でしょうしね」
ジーナちゃんが追随した。ふたりとも、自分の感覚をユラちゃんにおしつけるべきではなかったと、そう悔やんでいるみたいだ。こういうところが子どもっぽくなくて、周囲に気を配って負担が大きそうだなといつも思う。
ユラちゃんも、過剰反応だったと思ったみたいで、顔を背けたものの少しだけ沈んだ声で謝った。「悪かったわね、大袈裟な話をして。でも、わたしはあの研究にかけてるの。とにかく、気になって仕方ないのよ。それに、本当にレフオーブルに迷惑になるのなら、わたしは家を出るわ。傭兵でもすれば、やっていけるでしょうし」
噴水のところで、俺達はふた組に分かれた。
ユラちゃんは図書館へ行って論文の続きを書く。書きかけの原稿は預けているらしい。ロッカーみたいなものがあって、申請すればつかえるのだ。図書館勤務ではない奉公人には関係のない話なので、くわしくは知らない。
ミューくんとジーナちゃんも、ユラちゃんの資料集めを手伝う為に、図書館へ行くそうだ。それに、ミューくんはサキくんに話がある。この間、シアイルの二年生達(もうみんな下山してしまった)に相談されて、癒し手へ紹介状を書いたことについてだ。
あのあと、あの三人の先生にあたる人物は、癒し手のおかげで無事に快復したらしい。三人連名のお礼状がミューくんに届いたそう。サキも心配しているでしょうから伝えます、と、ミューくんは嬉しそうだった。どんな経緯であっても、具合の悪いひとが快復したと聴けば嬉しいのがミューくんである。
リッターくんは、宣言直後の職業加護検証が結構こたえたようで、お握りを食べてから少し横になりたいらしい。だから、三人とは別れて、帝国寮へ戻る。俺はリッターくんと一緒に帝国寮へ行って、お握りを一緒に食べ、リッターくんがお部屋に戻ったら自分の本来の業務へ戻る予定。




