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あ、そういえばこの四人、それにサキくんリオちゃん、ほーじくんも、収納空間持ってないな。ほかに有用な特殊能力を沢山持っているから、別に困らないだろうけれど。
俺の存在意義って、収納空間に集約されている気がするなあ。便利だもんねえ収納空間。慣れちゃうと、これなしで暮らすのって難しい。なにより、こっちだと上水道が発達してなくて、魔法でお水を出すから、お水を出す魔法をつかえない俺は収納空間に頼りっぱなしである。
ジーナちゃんがなぐさめるような、優しい声を出した。
「ユラ、論文はうまくいっているの? 先生がたが、あなたに期待しているようだけれど」
「まあまあよ」
少し離れたところから、ユラちゃんは怒っているみたいに返す。髪の毛がひょこひょこしている。「申請して、許可が下りたのに、なかなか閲覧できない本があるの。先生の誰かが、学生に読ませることはできないって、渋ってるらしくて」
「どんな本だい?」
ミューくんがやわらかく尋ねる。俺と腕を組んでいるリッターくんが答えた。
「魔王が出てくる小説だ。魔王についてくわしく書いてあるらしい」
「まあ……そんなおそろしいものがあるの?」
ジーナちゃんがうっすら眉をひそめ、ミューくんは目を丸くした。「驚いた。物騒な本があるものだな。それを読ませてもらえないからって、文句を云う必要はないと思うよ、俺は」
「ユラ、ミューの云うとおりよ。先生はあなたの為を思っているのだわ」
「そうだぜ。もしそんな……本を読んでいたことが知られたら、君を変な目で見るひとだって居る」
くわしい内容聴かずにそこまで云う? と思ったが、これがこちらの世界のひと達の標準的な感覚である。
研究の為といえ、あまり悪しき魂や魔王に強烈な拒否反応を示さないユラちゃんや、他人のやっていることだからと放置してるリッターくんが尋常ではないのだ。ふたりが普通じゃない。だから、ミューくん達の差別意識が強いって訳じゃない。
ないんだけど、こう、やっぱりダメージはある。ステルス攻撃された気分。いやわかってるよ、普通は嫌われてるんだって。もともとひとつだった国がみっつに分裂した要因のひとつだもん、魔王。
昔の王国の政策がまずかったとはいえ、その政策(魔力の高い人間を異常に厚遇する、還元士を囲い込む、など)を打った理由は、要約すれば魔王がこわいからだ。単純に、魔王が暴れるのがこわいってだけじゃなく、人間の正常な生活を乱すって意味で魔王を警戒しているひとも居るだろう。
魔王、嫌われてるなあ。




