3205
ライヴァスラー家には、シャム先生以外にも男児が複数居る。たしか、ユラちゃんが云ってなかったかな。シャム先生には弟が居て、一緒にメティの魔法塾に来てたって。
そもそもシャム先生当人は、そこまで「跡を継ぐ」という意識が強くはなかったそう。なんとなくだけど、弟が跡を継いで、自分はそれを補佐するようなイメージを持っていたらしい。そういう気持ちだった上で、入山試験合格である。
実際に入山したら、御山の雰囲気や価値観にとても共感し、離れたくなくなった。だから去年の段階で、自分は跡目を外れたいと家族に手紙で相談していたらしい。
ただ、シアイルの貴族というのは、次に誰が爵位を継ぐのかを明確にしないといけないという決まりがある。それをしていない状態で当主が亡くなったら、誰が跡を継ぐかで数年もめることもあるらしい。それに、きちんと跡取りを指名していなかった為に、お家そのものが取り潰されたこともあるんだって。
だから、男児を複数持つ。男の子ができなかったら養子をとるし、男の子がひとりだけしか生まれなくても養子をとる。
それは、まだ長男が結婚していないもしくは長男に男児が居ない場合、次男が暫定的に跡取りに指名されるからだ。暫定でなく、そのまま弟に爵位が移動することもある。とにかく、云いかたは悪いけれど、スペアを沢山用意しておく、という考えなのだ。
で、長男が居るのに次男が指名されるというのは、なにか理由がないと認められない。腹のたつ話だが、ツィーさまみたいに耳持ちだったり、アーデルさまみたいに聴覚障碍がある場合は、跡目から外す正式な理由になるということなのだろう。
シャム先生には、そういった理由がない。五体満足で、魔法をつかえない訳でもなく、反社会的な言動もしないし、捕り手の厄介になったこともない。そうなると、シャム先生が跡取りになるつもりがなくても、長男である以上は跡取りにならざるを得ない。
「それじゃあ、今からその……交渉するんですか?」
「そうなるな。御山で教員をしているから跡は継げないというのは、正当な理由になりうる。弟に譲るのだから問題も少ない。今まで跡目から外れなかったのは、御山に勤められるかがわからなかったからだから」
ああそっか。幾ら勤めたくても、簡単に勤められるものではないのだ、御山というのは。奉公人ならともかく、事務員や教員はね。
成程、じゃあ、シャム先生はしばらくしたら、ライヴァスラー卿じゃなくなるんだ。なんか変な感じだけど、当人が希望していることだし、それでいいんだろう。




