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シャム先生の弟さんは、今年も入山試験にやってくるし、お父さん(だから、現役のライヴァスラー卿)も一緒に来る。なので、手紙での交渉もあるけれど、八月になって機会があれば、直に話し合いもするつもりらしい。「うまくいくといいですね」
「もともと、弟のほうが領主に向いているんだ」シャム先生は嬉しそうににこっと笑う。「御山に残れなくても、どうにかして跡目を外れて、弟を補佐するつもりだった。跡目を外れる口実ができて、嬉しいよ」
そんなことを聴いていると、湖のほうから複数、ひとがやってきた。ミューくんが居る。リッターくんもだ。
「マオ」
リッターくんがほっとしたみたいに云って、俺の近くまで小走りにやってきた。俺は立ち上がってそれを迎える。リッターくんは俺に抱きつこうとしたみたいだったが、寸前で辞めた。真顔で謝ってくる。「すまん」
俺は笑いをこらえて頭を振った。いつもの調子だ。宣言はうまくいったらしい。
まあ、こわいこともあるけどね。さっき、ミューくん達と見送った時と比べて、リッターくんの服はめちゃくちゃ綺麗になっている。
今日はジアー先生も、宣言に立ち会っている筈だ。ジアー先生は家政取締役で、だから家政魔法をうまくつかえるのだろうし、服を綺麗に洗って乾かすなんてお手のものだろう。
リッターくんの服が不自然に綺麗になっているのは、シャム先生がきがえたのと同じ理由だと思う。不倒と護衛士の組み合わせの検証で、血を流すような怪我をした。だから、先生が服を洗って綺麗にした。そういうことだ。
俺は小首を傾げる。「リッターくん、抱きついてもいい?」
リッターくんがこっくり頷いたので、俺はリッターくんを抱きしめた。リッターくんがほっと、心底安心したように息を吐いたのを、はっきり耳にした。
ユラちゃんは、俺からリッターくんに抱きついたのに、何故かリッターくんを蹴った。リッターくんは膝ががくんと曲がったものの、表情はなく、膕の辺りをぱたぱた叩いて頷いている。「次の学期は護衛の仕事が楽になりそうだ」
「あんた、マオが甘い顔してるからって、調子にのらないのよ。まったく油断もすきもあったもんじゃない、マオの腰を撫でるし、それよりもっと下を触ろうとしてるし」
「マオ、握り飯を食べたい」
リッターくんはユラちゃんの叱言を気にせず、俺の目をまっすぐ見てそう云う。俺は笑いながら頷く。ユラちゃん、考えすぎだよ、リッターくんのほうが背が高いから必然的に腕も長くて、それで俺のお尻にまで手が届いちゃうだけだって。




