3202
俺は不安で、クッキーを10枚も食べられない。もごもごとグミを咀嚼し、不安をごまかそうと考えたが、あまりうまくいかなかった。グミはおいしいが、リッターくんが脳裏をちらつく。
ジーナちゃんもあまりお菓子に手をつけず、クッキーをかじっては膝の上に手を置き、かじっては……と繰り返していた。お菓子をめいっぱい堪能しているのはユラちゃんだけだ。
「あんた達、食べないの?」
「食べるけど、……でも……」
「食べないんなら、わたしが全部もらうわよ」
ユラちゃんはおそらく、あえて素っ気なく云っている。それはわかる。ここは御山で、御山は学生さんをないがしろにしたりしない。だから、多分、証人や神おろし以外に、万一に備えて癒し手の先生も立ち会っている筈だ。
癒し手というのは、応急措置に関してはほかの誰もかなわない力を発揮する。もとの世界の救急医療なんてかすんでしまうくらいに、止血の速度ははやい。大概の癒し手は、即死でなければどんな怪我でも対処する。少なくとも、危険な出血をくいとめることはできる。場合によっては、癒し手でなくても、怪我の治療に向いた魔法をつかえるひとであればできることだ。
そして、リッターくんは不倒だから、なにがあっても一撃では死なない。
それはわかってる。わかってるんだけど、不安なのはどうしようもない。リッターくんは、無理じゃないような顔で、簡単に無茶をする。一体どこから来る使命感なのか、不倒の検証に真面目に付き合っているのだと思う。それで事故をしないとは、限らない。
ジーナちゃんはクッキーをかじるのも辞めて、両手で持って、目を伏せ、じっとしている。ジーナちゃんは、リッターくんが不倒持ちだということを知らないが、護衛士の職業加護が「体力魔力徐々に恢復」だとは知っている。職業加護の検証かもと考えていれば、俺よりも余計に心配だろう。
ユラちゃんはあぐらをかいて、マシュマロがみょんと伸びるクッキーを食べていた。
「ふたりともしんきくさい顔してるわね。やめてよ」
「あなたは心配じゃないの、ユラ?」
「そうでも」
ユラちゃんは軽く肩をすくめ、何個目かのマシュマロクッキーを手にとった。熱の魔法であたためている。マシュマロがぶくぶくふくらみ、湯気がたつ。
「なにがあったのかは知らないけど、御山なんだから、おそろしいことは起こらないわ」
トゥスミア先生のことを思い出したのか、ユラちゃんは表情を曇らせて付け加えた。「少なくとも学生には」




