3189
「まあまあ避けられるようになったじゃないの」
「お前も魔法制御の腕は鈍っていないようだったぞ」
ふんぞりかえっていたユラちゃんがむっとした。「リッター」
「なんだ?」
「あんたは口のききかたがなってないわ」
リッターくんは軽く肩をすくめた。
時間はなかなかすすまない。俺達はシアイル寮のまわりを散歩することにした。
学生さんのなかには、どんな職業になったのかを明かさないという選択をした子も居る。不名誉職という場合もあるし、職業を隠す自由は御山では保証されているのだ。だから、まだ順番がまわってきていないのに、湖の傍で順番を待つのは、できる時とできない時がある。
できない時がそれ即ち不名誉職の子の宣言の直後、という訳でもないけれど、職業を隠さないまでも、特殊能力との兼ね合いなどで宣言直後にいろんなことを試す場合もあって、それを隠したいっていう子も居る。あまりにも貴重なものだと、御山が隠そうとしている場合もあるし。
今日は、湖の傍で待つことはできない。直前に呼び出されるので、ふたりはそれから湖に行って宣言をする予定だ。ユラちゃん、リッターくん、の順番。
今日中のどこかのタイミングで呼び出しがある筈だが、それがいつになるかは不明だから、ユラちゃんも暢気に図書館へ行くことはできないのである。だって、図書館と湖、遠いもん。
「マオ、来年、わたし達が下山したら、一度メティまで来なさいよ」
「え?」
数m先を歩くユラちゃんは、髪をふわふわさせて振り返り、微笑む。「あんた、装飾品が好きでしょ。メティはラプラタナにあるのよ。真珠は幾らでも売ってる。そうそう、かつおぶしもあるわ」
真珠とかつおぶし。どちらかというとかつおぶしにひかれる。
ユラちゃんは前を向いて続けた。
「それに、あのまちの魚料理はおいしくないのよね。うちの料理人に指導して頂戴。あんたのつくる魚料理なら、なまぐさくもないし、おいしいもの。それに結構、いいとこよ」
「楽しそうだね」
こちらに来てから、海は見ていない。ラプラタナは海のある地域だ。俺は両親とも、実家が海の近い地域にあって、夏休みやお正月でどちらの実家へ行っても、浜辺で貝や海藻、シーグラスを拾ったり、砂を壜につめて遊んだりしていた。
べたつくのがいやで泳ぐことはめずらしかったけれど、海には親しんでいる。だから、ちょっといいな、と思った。
俺の感想に満足したのか、ユラちゃんはまた振り返って、にこっとする。
「無事に下山できるかどうか、わからんぞ」
リッターくんが水を差しても、ユラちゃんは機嫌よそうな笑顔のままだった。




