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エイジャさんはお茶をすする。彼がいらだたしげに棚を蹴って、資料が落ち、収納空間へ吸いこまれた。
「ファルさまだって入山前だった。自分よりも歳上だから、大人みたいな気がしてたけど、そんなことない。あのふたりは優しくて、助けてくれたのに、子どもだから失敗した。それだけだ。俺達も子どもだからうまく隠れられなかった。あのふたりは悪くない」
「ええ」
「そんなことも理解できてなかった」
エイジャさんは言葉を切り、からになったマグをさしだしてきた。俺はそれをうけとり、収納する。汚れた食器は後でまとめて洗ってしまうつもりだ。
「自分の、子どもっぽくて浅はかなところが、はっきり見えたよ」
「そんなことないですよ」
「いや、俺はばかだったんだ」
エイジャさんは智慧者だ。経験したすべて、忘れることができない。失敗だと感じることや、いやな記憶も、しっかりと思い出せる。
俺は自分のマグをからにし、収納した。
「今は違いますよね」
「うん?」
「今は、エイジャさんはばかじゃない。それでいいでしょ」
俺は棚を両手で揺らす。エイジャさんがわっと云って、はしごから滑り落ちた。俺は吃驚して、エイジャさんに手を伸ばす。「エイジャさん、ごめんなさい」
「ああ……」
エイジャさんは立ち上がると、ははっと笑った。
「いや。いいよ。マオ、はげましてくれて、ありがとうな」
「そういえば、四月の雨亭の給仕だって子が、試験に来てたぜ」
エイジャさんと手をつないで、俺は隠し通路を歩いている。資料庫は、あのお部屋の棚の裏にある隠し通路の、その先にあるらしい。隠し通路へ這入る為の隠し扉は、ほかにも幾つかあるそう。
「四月の雨亭の?」
「セロベル先生と、アヤ先生連名の推薦状を持ってた」
アヤ先生……あ、やすでさんが暴れた時に来てた、「砂時計」のもと・先生だ。どんな怪我でも病気でも、一定時間寝れば治るっていう。
そっか、入山経験者だし、補助教員だったそうだから、推薦状書けるんだ。もしかしたら、俺が提出した推薦状にも、アヤ先生の名前があったのかも。
でも、四月の雨亭の、誰だろう。
「誰が来たんですか?」
「グエン・シュナースヴェン」
さすが、智慧者だ。エイジャさんは一拍も置かずに名前を云った。
グエンくん、奉公人になりたいなんて云ってなかったけど、なにかあったのかな。
俺の表情で、なんとなく気持ちがわかったらしい。エイジャさんはくすっとする。「どうして御山で働きたいのかって質問に、友達が奉公人をしていて楽しそうだからって答えてた」




