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「サキは、俺のことを、なにか云っていたか」
食器棚の上のほうにお皿を仕舞いこんでいた俺は、脚立の上で振り返った。リッターくんの頭が見える。
脚立を降りようとするとよろけ、俺は小動物みたいにリッターくんに抱え上げられて、床におろされる。「大丈夫か」
「ありがと」
「いや」
お互い黙る。リッターくんはいつもどおり、表情がうすい。
俺は脚立を収納し、手を洗った。後のお皿は、俺が持ってきたものだ。収納すればいい。
簡単に拭って、お皿を収納した。
リッターくんが突然、後ろから抱き付いてきた。びくっとする。
「すまん」
「リッターくん?」
「……宣言がこわい」
おお?
まじで? リッターくんが、こわい、なんて、めったに云わないぞ。そっか、宣言ってそんなにこわいものなんだ。
リッターくんはらしくなく声を震わせている。「俺はサキのように、強くはない」
「……えーと」
「サキは強いのに認めようとしない。俺は強くもないのに強い振りをしている。とても奇妙だ」
うーむ。重症みたい。
リッターくんの腕を、軽く叩いた。リッターくんはいつも冷静なように見えるけれど、そうであってもまだまだ子どもなのだ。わからないことも多いだろうし、生きてきた年数が短いのだから、不安はとても大きいだろう。
「大丈夫。リッターくんは、弱くはないでしょ」
「……そうだろうか」
「強くないってことは弱いってことじゃないよ」
リッターくんは深呼吸する。俺の肩の辺りに顔を埋める。その頭を撫でてみる。リッターくんの頭、重いな。
「俺のような人間が、護衛士になったとして、なにができるのだろう」
「それは、知らない」
俺がわかることじゃない。無責任なことは云えない。
「でもさ、リッターくんは護衛士になる為に、ずっと頑張ってきたんでしょ。なら、なんとかなるよ」
「……なんとか?」
「少なくとも、不倒と相性はいいでしょ。体力魔力徐々に恢復だから」
「ああ……」
特殊能力との相性のよさは、否定できないのだろう。リッターくんはそう返事して、俺のおなかの辺りにまわした腕に力をこめる。なんだか、弟でもできたみたいだ。
「マオ、傍に居てくれ」
「うん」
「失敗しないだろうか」
「しないよ」
「サキは、不安だっただろうか」
「わからない」
しばらく、そんなふうに問答があった。リッターくんは本当に、不安で、緊張しているのだろう。御山も、宣言順をさっさと報せればいいのに、どうして直前に伝えるのかな。学生さん達が可哀相だ。




