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パウンドケーキはおいしかった。ジーナちゃんは勘がよくて、ごまに含まれる油分のことを考え、バターを少しだけ減らしていた。そのおかげで、ぎとぎと油っこいなんてことはなく、ごまの風味が鼻にぬけるおいしいパウンドケーキになっている。
「マオ、どうかしら」
「おいしいよ。四月の雨亭で出せるくらい」
俺の言葉は、ジーナちゃんをほっとさせたようだ。
ユラちゃんが口のまわりにケーキくずをつけながらぱくぱく食べている。サキくんがちょっと笑った。
「ユラ、そんなに顔の形がかわる程頬張って、美人が台無しだよ」
「……サキ、そういう軽口はあんたらしくないわよ」
ユラちゃんは口のなかのケーキを飲み込むと、グルブワースさまが淹れたお茶をぐいっと飲む。マイファレット嬢は植栽担当の奉公人達とお昼だそうで、今は居ない。
ユラちゃんはサキくんが大切に持っている、丸めた羊皮紙を指さした。
「ねえ、もしかして、もう追加の職業加護をもらったんじゃない? あんた、還元を相当してたもの、還元士に劣らないくらいに。見せてよ」
「残念だけど、追加の職業加護にはまだまだ遠いかな」
サキくんは笑いながら、みんなに見えるように、ローテーブルの上辺りで羊皮紙をひろげた。
三人がそれを覗きこむ。ミューくんが、ぱっとサキくんを見た。ユラちゃんは息をのみ、ジーナちゃんは、まあ、と云って口を覆う。
サキくんは羊皮紙を丸め、にこっとした。
「そう、僕は戦士になったんだ。ミューをまもるのだって、前よりももっとうまくできるさ。体力が底上げされてるからね」
サキくんは、実は以前から、還元士になる将来には不安があったこと、戦士になろうかずっとなやんでいたこと、還元士でなくても充分還元できていること、などを簡単に話し、パウンドケーキを食べた。
ユラちゃんがむくれている。
「あんたねえ、ひと言くらい……」
「僕が個人的に判断するべきことだろう?」
「だとしても、相談くらいしなさいよ。友達でしょ」
ストレートな言葉に、サキくんは一度しゃっくりをして、それから小さく笑った。「ああ、そうだね、ごめん」
「ほんとにもう、薄情な連中ばっかねえ。ねえちょっと、まさか、ミューやジーナも進路をかえるんじゃないでしょうね?」
「わたしは志望どおり、射猟士になるわ」
「おいおい、俺だって志望どおり癒し手になるよ。当然じゃないか」
ミューくんが云い、ジーナちゃんが横目でそれを見る。「ミューは真面目だものね」
「なんだか含みのある云いかただな、ジーナ?」
「そう聴こえるのなら、それでいいわ」
ジーナちゃんとミューくんはちょっと、見詰め合い、それから黙る。




