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ミューくんが紹介状を書き、三人はそれを押し戴く。ひとりはもう下山できる状態なので、それを持って下山するそうだ。ミューくんは、もしその癒し手でもだめだったら、別の癒し手を紹介すると云っていた。三人とも、ミューくんや、何故か俺達にまで丁寧にお礼を云い、シアイル寮のほうへ走っていった。
ミューくんも加わり、三人で歩く。目指す先は一般寮だ。連邦寮へはミューくんは這入れないし、ディファーズ寮へサキくんは這入れない。勿論、決まりがあるのじゃなく、そんなことは誰もしようとしないから反発をくらうだろう、ということだ。
一般寮へ後少しというところで、鐘が鳴りはじめた。お昼の鐘だ。ミューくんがお祈りをはじめ、サキくんと俺で両脇を抱えて歩かせる。そういえば、まだ試験は終わっていないみたいだ。試験終了の鐘の音を聴いていない。
一般寮に辿りつく。玄関扉を開けると、床掃除中だった奉公人達が、ミューくんの両脇を抱える俺とサキくんにぎょっとしたけれど、すぐにくすくす笑って、ひとりが奥へと走っていった。
「あら、あんた達も来たの」
その奉公人がつれてきたのは、ユラちゃんだ。ユラちゃんはくいっと、顎で背後を示す。「丁度、切り分けたところよ。ジーナはミューには秘密だって云ってたけど……?」
ユラちゃんは今日も、図書館で調べものと論文執筆をしていたらしい。で、一番近い一般寮でご飯を食べようと、やってきた。
ジーナちゃんは、ケーキを焼く練習をさせてもらいに、ここの厨房へ来ていた。それで、ジーナちゃんが焼いたパウンドケーキをみんなで食べよう、というところだったそう。
「あなたに隠れてこそこそするのは、無理みたいね、ミュー?」
ジーナちゃんは不満げだ。得意な筈のパウンドケーキを、どうして隠れてつくる必要が、と思ったら、配られたパウンドケーキは断面が黒かった。匂いから判断するに、黒ごまペーストをまぜたらしい。香ばしくて甘い香り。アレンジして、うまくいくかわからなかったから、ないしょでつくっていたのだろう。
ソファに座ったミューくんは、ジーナちゃんの腕をひっぱって隣に座らせ、にっこり笑う。「やっと、俺から逃げるのは無駄だって気付いた?」
「それよりも、あなたがサキを待つ為といえ、ひとりでうろついていたことは問題だと思うわ……」
「リッターみたいなことを云うなよ。俺は自分の身くらい自分でまもれる」
「それには、僕は同意できないね」
サキくんがまぜかえした。ミューくんがむくれ、ジーナちゃんがくすっとする。ユラちゃんはパウンドケーキを頬張っているのに、両手にも掴んでいる。うまくいったみたいだよ、ジーナちゃん。




