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それから、ズフダリフ先生とそれなりの時間、雑談した。
サキくんの緊張がどんなものかはわからないが、俺は緊張していない。サキくんが失敗するなんて考えられないし、先生がたが居るんだから、万一、魔物に襲撃されても大丈夫だ。なにも心配はない。
「ご飯、なにがいいですかねえ」
「彼の好みのものを出せばいい」
「サキくん、なんでもおいしいって云ってくれるからなあ」
甘いものが好きみたいだけど、お肉もお魚も、淡泊で素材をいかした味付けでもスパイシーでがつんとくるものでも、なんでも文句を云わずに食べてくれる。リッターくんからもらったお握りも、おいしそうに食べてたっけ。
「ズフダリフ先生はなにを食べたいです?」
「木の実とかぼちゃの煮込みと、山羊の丸焼き」
思いきり裾野料理である。「特に山羊の骨を食べたい」
教員寮では難しいなあ、山羊の丸焼き。
山羊の丸焼きと炊き込みご飯のおいしさを、ズフダリフ先生に講義してもらっていると(「あのあぶらがしみこんだところがたまらないんだ。とりあいになるから、どれだけ熱くてもみんな口に放りいれる。食後は癒し手に叱られるとわかってても」)、湖のほうからサキくんと、実技の補助教員がひとり、歩いてきた。宣言が終わったのだ!
「サキくん」
切り株から飛び降りて、サキくんまで走った。サキくんは顔色が悪いが、ほっとした様子で、右手に握りしめた丸めた羊皮紙を、軽く掲げる。「マオさん、これで僕も一人前の男ですよ」
頷いた。サキくんはにっこりして、俺を軽く抱きしめる。相変わらず顔色は悪い。
ズフダリフ先生が実技の補助教員と少し話し、俺とサキくんのふたりで連邦寮へ戻るように云って、湖のほうへと行ってしまった。
俺はサキくんと軽く手をつないで、ゆっくり歩く。道端の小石、じゃなくて、オブシディアンを蹴っ飛ばし、その辺の草を指さしてどうやって食べるとおいしいか喋り、花を摘んでかじった。
サキくんはほとんど喋らなかったけれど、段々と顔色がよくなっていった。途中で一度、倒木に腰掛けて休憩し、飴をなめた。
学生さんは、試験をうけているか、寮に居るか、一時下山したか、学舎か教員寮まで行って推薦状をもらっているか……少なくとも、授業はもうないし、走りこみをしている子も居なかった。その所為か、とても静かだ。
再び歩き出して、ふと思い出したみたいに、顔色のよくなったサキくんが羊皮紙をひろげる。「そうだ、マオさんに見てもらわなくちゃ。これが、宣言をした僕の能力証です」
覗きこむ。そこには、還元士ではなく、戦士と書いてあった。




