表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3297/6880

3163


「翻って」

 ズフダリフ先生は顔をしかめていた。「宣言は、わかりきっている簡単なことをする。自分はなにになると口に出すだけだと、子どもの頃から聴かされていた。それが、宣言直前にどういう状態をつくりだすかといえば、まっさらな恐怖だ」

 恐怖……。

 ズフダリフ先生は思い出したみたいで、尚更表情をけわしくする。

「それは、かつて体験したことのないおそろしさだ。宣言は誰にだってできる、ごく簡単なものだろう? だから当然、対処法なんてものはない。当然だ。誰にだってできるんだから。井で宣言した友人に云わせれば、ことはもっと簡単で、宣言の為に並んで待ち、よくわかりもしないまま宣言して能力証をもらい、次のひとの宣言があるからとその場から追い払われる。これは気が楽だろう」

御山(おんやま)では違うんですか?」

「急かされることは一切ない。お前の友人が自分の番が巡ってくるのを待っているのだからとっとと云え、なんて脅されることは。しかしそれをしてくれたほうが楽だと、俺は思った」

 ほう。


 ズフダリフ先生はマグをからにし、自分の傍らへ置いた。俺はそのマグに、おかわりを注ぐ。

「どうぞ」

「ああ……君は、失敗はこわくないか?」

「はあ。場合によりますけど。ひとの命がかかりでもしてなければ、平気です」

 ズフダリフ先生はマグをとりあげ、笑った。

「そうか。俺は失敗がおそろしかった。自分がしくじったら親を失望させる。目をかけてくれた先生にみはなされる。そんな気持ちがふくらんだ。おそらく俺の体よりもはるかに巨大にね。宣言は、これになると云うだけだ。それで失敗したらどうしようと、気を失うところだった」

 あー。簡単で、誰でもできることだから、そんな簡単なことに失敗したら……と考えてしまって、こわくなるのか。自分の影に自分で怯えるような感じ?

「例えば、還元士になると決めているのに、ひょいっと癒し手と云ってしまったり、戦士と云ってしまったらどうしようと、そんなふうに考えてしまって、七月にはいってからは何度も、還元士、と云う練習をしたんだ」

 あ、そういう心配もあるのか。俺も、読み合わせでもリハーサルでもすらすら出てきた言葉が、本番で別の言葉に置き換わってしまったことが、一回だけある。そうか、それで志望の職とは別の職になってしまったらと思うと、そらこわい。かえられないもんな。

「先輩達は平然と、そんなことをするから余計に緊張するんだなんて云ってきたが、なにもせずには居られなかった。後で訊いたら、先輩達も同じように、なりたい職業を何度も口にして、宣言で失敗しないようにしていたと白状した」

 ズフダリフ先生はそう云って、ちょっとだけ笑った。


感想ありがとうございます。はげみになります。

誤字報告ありがとうございます。助かります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらも宜しくお願いします。 ループ、あの日の流星群
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ