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サキくんは俺にお辞儀して、湖のほうへ歩いていった。ラスターラ卿と、証人達も、それに続く。ラスターラ卿は一度だけ振り向いて、俺に軽く手を振ってくれた。俺も振り返す。
今日の午前、湖はサキくんの貸し切りだ。誰かがいれかわりで出てきたりはしない。
俺は、ズフダリフ先生のすすめで、切り株に腰掛けた。おそらく、宣言を待つひと用なのだろう。同じくらいの位置に、切り株があとふたつあった。友達や、入山者のきょうだいにこうやって待っていてもらう子も、居るのだろうな。
ズフダリフ先生は俺の隣に座り、長い脚の間で指を組んだ。せなかを少し丸め、項垂れた姿勢だ。「なにか、食べたらどうだ?」
先生はサキくんの無事を祈っているように見える。
俺は甘さ控えめのオートミールのクッキーと、はちみついりのおからのクッキーを食べ、お茶を淹れた。
ズフダリフ先生は、朝食をとったからとクッキーは遠慮したが、淹れたてのお茶に抗える裾野人は居ない。マグを差し出すとお礼もそこそこにうけとって、咽を鳴らして飲んでいる。
「ありがとう」
「はい」
「うまい茶だな」
「あの」
「ああ」
「宣言ってこわいですか?」
ズフダリフ先生はマグを両手で持ち、こちらを向く。少々不審げだ。「質問の意図がわからない」
「ああ、えっと、俺はよくわからないまま宣言したので」
謎のキャラメイク空間に放りこまれて、宣言しないとどうしようもなかったのだ。その後職業をかえられないとか、そんなことはひとつも説明されていない。
ズフダリフ先生の目が気の毒そうに細くなった。
「そうか。それはきのどく……いや、すまない、忘れてくれ」
「はい?」
「俺の意見でよければ云うが、相当緊張する。初めて子どもだけで収穫に行くよりも、かなりおそろしかった」
ズフダリフ先生は俺から目を逸らし、お茶をすする。「俺は宣言前に、友達三人と収穫へ行ったんだ。それもこわいのはこわいが、大人達から散々対処法を聴いている。大きな虫が出たらまとまって逃げろとか、魔法をうまくつかえなかったらしばらく深く息をするんだとか、トゥアフェーノは脅かせばすぐに大人しくなるから大きな音を聴かせるんだとか。そのほかの魔物、それに咎人の話は聴いていたが、それも対処法と一緒にだった。だから、こわいけれどこう対処すればいいと思えば落ち着いていられた」
ああ、そうか、そういうものかな。
ホラーゲームのこの先の展開と、攻略法を、同時に聴くようなものだろうか。たしかに、こわさは半減するかもしれない。




