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「疲れたのでは?」
ズフダリフ先生は、やわらかくて小さな声を出す。「サキと顔を合わせたら、宣言の間になにか腹に収めるといい。顔色がよくない」
「朝ご飯食べ損ねたんです」
「それは君にとって、重大な危険じゃないのか」
ズフダリフ先生は心配げに俺を見る。角がきらっと、日光を反射した。
アマラ先生はまだ、教員寮へ戻れていない。奉公人の寮に居る。婚約者であるズフダリフ先生が、奉公人の寮へ来ることは多い。
で、一度、俺が忙しさにかまけて食事を忘れ、低血糖で動けなくなったことがあった。広間でテーブルに突っ伏してかたまった俺に、メイリィさんやサフェくんがお菓子を食べさせてくれて、なんとか快復したのだ。
ズフダリフ先生はたまたまその場に居て、食事をぬくとこうなるんですよと笑った俺に怒ったような顔を向け、ぷいっとどこかへ行ってしまった。どうもその後、ジアー先生に話してくれたみたいで、俺が食事をぬくような事態にはなっていなかった。今朝までは。
「飴でもなめたほうがいい」
「じゃあ、失礼して……」
収納してあった黒糖の塊を口へいれた。嚙み砕いて、すぐに飲み込む。これで、当面の危険はない。
ズフダリフ先生はちょっと溜め息を吐いて、小さく頭を振った。収納空間のつかいかたに呆れているらしい。
「マオさん」
湖まで後数十mというところに、サキくんが居た。ラスターラ卿と、証人達も一緒だ。
結局、御山内の証人では数が足りず、傭兵協会や井から派遣してもらっている。彼らは教員寮に間借りしていて、御山に慣れていないのか、サキくんよりも余程緊張した顔だった。
サキくんは俺に駈け寄ってきて、目をちょっと伏せる。俺はサキくんをやわらかく抱きしめて、頭を撫でた。「大丈夫だよ。なにもこわくないから」
「……はい」
サキくんは俺をぎゅっとして、離れた。
「あの……宣言してきます」
「うん」
「終わったら、マオさん、あの」ひくっとしゃっくりが出て、サキくんは吃驚した顔をする。「……ああ。えっと、よかったら、一緒に、食事をしませんか」
「うん。わかった」
サキくんはほっと、息を吐いて、二歩後退った。ラスターラ卿がやわらかく、宥めるみたいに云う。
「さあ、行きましょう。宣言は痛くも痒くもない。少々煩わしいだけだ。終われば君には、マオさんとの楽しい食事があるのだから、こわがらなくてもいい」
サキくんはラスターラ卿を見て、にこっとした。
「そうですね、ラスターラ卿。僕、居もしない魔物に怯えていたようです」




