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人間の心理はよくわからない。特に、悪いことをするひとの心理は、謎だなあ。どうしてばれないと思っているんだろう。または、自分だけは大丈夫だと思っているのは。
俺はここに居るのだって、ずっと不安だ。
一の門に辿りついた。俺は息を整えてから、門を潜り、山道へ這入る。
アロさんは迎えが来ると云ったが、ただそれを待っているだけでは、サキくんの宣言に間に合わないおそれがある。少しでも距離を稼ぎたい。さいわい、山道は一本道だから、お迎えのひとと行き違うことはないだろう。
サキくんにとっては、今から一世一代の行事、というか、儀式なのだ。これから一生かえられない職業を選ぶのである。
そんな大事な場面で、俺が遅れた所為で開始までが長引くのは、忍びない。ああいうものは、待っている間ほどこわいと聴く。その恐怖とか緊張を、長く体験させたくない。
山道を幾らか進んだ。横合いから腕を掴まれたと思ったら、誰かのせなかに負ぶわれている。
淡い緑の髪の毛が見える。それにまじるピンクも。「れ」
「ぼくが君を運べるのは山道の間だけだよ」
俺を負ぶったレクトラさんは、肩越しにこちらを見てちょっとにやっとした。「上でまた別の人間が待ってる。君は魔力が高かったよね? 目を瞑って、口をしっかり噤んで、掴まっていて。ぼくは快速持ちだから」
返事をするひまはない。レクトラさんは上体を少し屈めると、矢のように走り出した。
俺は忠告どおり、目を瞑り、口を噤んで、レクトラさんの首にしがみついていた。目を開けたら気分が悪くなりそうだし、口を開いたら舌を嚙むだろうし、しがみついていないと振り落とされる。
おそろしい揺れと、耳や目蓋を切るような冷たい空気にしばらくさらされた。レクトラさんが停まり、俺の腕を軽く叩く。「もういいよ」
目を開けると、山道のかなり上のほうだった。啞然とする俺を、レクトラさんは地面へおろす。脚が震えているが、なんとか立てた。もの凄い速度で山道をあがったらしい。快速って、すげえ。
「じゃ、ぼくは消えるね。また会おう」
レクトラさんは平然と云い、姿を消した。隠密をつかったのだ。
俺は、まだちょっと啞然としていたが、頭を振って歩き出す。今はサキくんのことだ。サキくんの宣言が、とにかく今、最優先すべきこと。
残り数十段をのぼりながら、朝ご飯食べたっけ、とちょっと考えた。
「マオ、はい、掴まって」
山道をぬけると、タイティーダさんが待ち構えていた。俺はなにかを云う前に負ぶわれ、タイティーダさんが走り出す。勿論、レクトラさんのような速度は出ない。




