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あ、そっか。
「ーー者」はひとりにつき絶対にひとつで、例えば表象者兼農芸者なんてことはありえない。そういうものだとされている。でも、「ーー者」持ちに、ほかに特殊能力が一切ないという訳じゃない。
なんか、こう、コスト的な、ひとりにつき特殊能力を取得する為のポイントが決まっているみたいな、そんなイメージがうっすらあった。俺自身が、ゲームみたいにキャラメイクして、こちらに飛ばされたから。
でも実際は、そういうコストみたいなものはない。リッターくんみたいに万能で不倒とか、ツァリアスさんみたいに開拓者で収納空間も凄いとか、ある。逆に、特殊能力がありません、ってひとも存在する。
だから、なんでも一瞬で記憶する智慧者で、なおかつ伝糸持ちということは、ありうる。そしてそういうひとだったら、ちらっと見ただけの答案をまるっと暗記して、伝糸で外の誰かに伝えることは可能だ。
「でも、ランスさんは提出してませんでしたっけ?」
提出が試験前なのかうかった後かは忘れたが、そう聴いた覚えがあったので、云う。
アロさんは苦笑した。
「だね。今、なかに居るのも、能力証を提出して、実見者が本物だと認めてる人間ばかりだ」
アロさんは頷き、続ける。
「答案を複製するだけじゃなくて、不届き者が這入りこもうとしないかとか、作業している子達が要求したらこういうふうに軽食や飲みものを持ってくるとか、インクや紙を補充するとか、やることは多いからさ。エイジャは特別信頼されてるし……」
インクの補充云々とか、お茶を用意するとか、凄くよくわかる。よっぴて人間コピー機をするのである。なにか食べなきゃやってられん。
小刻みに頷く俺に、ひょいっと、アロさんは肩をすくめる。「勿論、外にだって、能力証を提出している子は沢山居る。でも、能力証を提出していたら完全に信用できるって訳じゃない。ランス達が信用ならないってことじゃないよ。でも、ひとり、たといローブをとるくらいの簡単な用事でも、なかへいれてしまったら、ほかの子達が不満に思うでしょ? どうしてあいつがよくて俺はだめなんだなんて騒がないように、一律で立ち入りを禁じてるってこと」
成程な。設営にかりだされた奉公人のなかには、まだつとめはじめたばかりの子も居る。そういう子が信用ならないという訳ではなくても、完全に信用できる訳でもない。それに、どれだけ長くつとめていても、魔がさすことはありうる。
立ち入りを厳しく制限しているところを見せる目的でもあるのだろうな。もし指示に違反したら、魔がさしたじゃすまなくなりそうだ、と思わせる為に。




