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「そうか」
リッターくんは小さく鼻を鳴らす。「お前はマオが大切なのだな」
「なにを当たり前のことを」
「ならば、マオがいやがることはするな。マオはお前がシークンと居ると、つらそうだ」
え、俺そんなに顔に出てる? たしかに、あんなやなやつと無理に付き合わなくてもいいのに、とは思ってるけど。
サキくんはなにか云い返したいみたいだったが、口をぱくぱくさせているだけだ。リッターくんはもう一度鼻を鳴らして、繁みを越える。
が、すぐに戻ってきた。「邪魔をしたようだな」
「は?」
「お前のお友達は、お前を置いていったぞ」
リッターくんらしくない。
なんだかいらいらしているようで、リッターくんは皮肉っぽくそう云い、近付いてきた。サキくんがかたあしをさげる。「マオ、戻るぞ」
リッターくんはサキくんの腕から俺をとろうとする。サキくんが身をよじり、リッターくんの手を避けた。
「僕が送る。君はユラの手伝いがあるだろう。彼女、資料集めで忙しいのじゃなかったか」
「俺は役に立たぬと追い出された」
「は、は、は、そりゃおかしいや。君みたいに優秀な人間が? 冗談も程々にしてほしいな」サキくんは顔を歪めた。「それともマオさんに会いたくて気もそぞろだったのかい、リッター?」
「そういったものいいは辞めろ」
「そうか、それじゃあシークン達を僕の友達だと皮肉ったのは誰だったか、教えてくれないか」
ぽんぽんと、ふたりは云い争う。サキくんは数歩さがって、リッターくんはその分追ってくる。俺はサキくんの腕のなかで、啞然としている。
リッターくんが舌を打った。俺の左腕を掴んでひっぱる。痛い。
俺の顔が痛みで強張ったからか、サキくんが小さく息をのんで腕を解いた。リッターくんは俺を背後に庇う。どうして喧嘩になってる訳?
「サキ、お前が幾ら」
「君は本当に腹のたつやつだな」
サキくんは喚く。「なんだってうまくいってきたんだろう。なんだって思ったとおりになってきたんだろうさ。君はなんにもわかっちゃいない。僕は臆病なんだよ。僕だってあいつらはきらいだ、吐き気がするくらいに」
「なら」
「でも家のこともある、家族のこともある、僕にはしがらみが沢山ある。なんだって思いどおりの君には一生わからないよな。僕みたいな人間がどれだけ我慢して、なにもかものみこんでいるか?」
「サキ……」
リッターくんが呆れたように云い、それがたまらなくおかしいとでもいうように、サキくんはけたたましく笑った。
「君のことが好きなのに、こうやってろくでもない云い争いしかできやしない。僕はどうしようもない人間なんだよ」




