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それにしてもそうか、スルくん、カイザサイグ嬢のこと好きなんだ。でも、スルくんのお家は改易されちゃったし、これって相当厳しい情況なのでは。
「スルくん、まだ好きなの? カイザサイグ嬢のこと」
「おそらく」
リッターくんは頷く。「一昨日に、夏休みに彼女と会えるといいのにと云っていた」
それはもうおそらくじゃなくてほとんど確実に好きじゃん。
うーん、と思わず唸ってしまった。リッターくんは小首を傾げる。「なにか問題があるのか」
「いや、そうじゃなくって……」
いやあ、問題はあると思う。カイザサイグ嬢の意思次第だけどさ。もし、ふたりが両思いになっても、お家のことがあるもの。
唸る俺の腕を、リッターくんは軽くとって、再び歩き出した。
「何故、俺の思いをたしかめたかったんだ」
「あー……」
俺はそれに、答えない。「リッターくん、ミューくんのことは、恋愛じゃなく好きなんだよね」
「ああ」
ほら、そうだ。
俺は小刻みに頷く。それだけは間違っていなかった。よかった。何度か確認してるもんね。リッターくんがミューくんと仲好くしたいのは、崇敬の念からだ。
「じゃあさ、好きなひとって居る?」
流れで答えてくれないかと思い、訊いてみた。
リッターくんが停まり、俺も停まる。
見る。
リッターくんは前を向いたまま、かたまっている。動かない。
しばらく待った。なにか、真剣に考えているらしいから。
そして、リッターくんはゆっくりこちらを向き、俺の頬に頬を合わせた。
「よくわからない」
「え?」
「親しくなりたいと思う人間は居る。自分のものを分け合いたいと思う人間が……だが、よくわからない」
「……それ、誰?」
「云いたくない」
リッターくんははなれていった。あらら。
ひっぱられて、俺はバランスを崩し、リッターくんの腕におさまった。リッターくんは俺をうけとめてもまったく体がぶれない。
「ごめん」
「ああ」
はなれようとしたが、リッターくんは俺の体に腕をまわした。ぎゅっとされる。リッターくんらしくない、少し震える声で云う。「少し、このままで、いいか」
「いいけど……」
リッターくんはふうっと息を吐く。どうしたのだろう、と思った。
「俺はもうすぐ、護衛士になる。マオ、できれば、傍に居てほしい」
その、かなり小さな声で、リッターくんも宣言が不安なのだと気付く。だから、いいよと云った。リッターくんは安心したのか、ふうっと息を吐く。もしかして、スルくんのことだけじゃなく、このことも話したくて、わざわざ外に出たのかもしれないな。リッターくんって、あんまり喋らないし、表情もそんなにかわらないけど、感情の起伏はちゃんとあるのだ。当たり前だけどさ。




