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リッターくんはなにも云わない。そちらへ顔を向けると、彼は小首を傾げていた。それから首の角度を戻し、云う。
「ああ、そうだったな。忘れていた」
……これは、脈なしかなあ。
リッターくんはぐいっと、俺に顔を近付ける。
「なあに?」
「何故、彼女の話を?」
「リッターくんがカイザサイグ嬢をどう思っているのか気になったから」
低声で本音を告げると、リッターくんは三秒考えて、こっくり頷いた。それから、ちょっと離れる。
「そうか。俺は彼女に興味はない」
ありゃ。
俺は目をしばたたく。「えーと、それは、その、お家のこととか、なしでも?」
リッターくんはまた、しばらく考える。
リッターくんが立った、と思ったら、腕を掴まれ、ひょいっと立たされた。「マオをかりる」
リッターくんはラウトさんにそう断って、俺をひきずり、フランス窓から外へ出た。マイファレット嬢がきょとんとしている。
リッターくんは無言で、俺と腕を組んだまま歩き、停まった。一般寮の裏庭、的が見える辺りだ。全部は見えない。
リッターくんは俺の腕を放す。「リッターくん」
「このことは他言無用に願いたいのだが」
「うん?」
なんだろうと思ったら、リッターくんは淡々と云う。
「俺はカイザサイグ嬢になにも思いはない。だが、スルは彼女を好いているようだ」
はい?
目も口も全開にしてしまった。スルくんが、カイザサイグ嬢を好いてる。とは?
リッターくんは何故か頷く。
「スルが何故、俺と接触したのか、ずっと疑問だった。それで、今年の初めに問い質した。俺がかつて、カイザサイグ嬢と婚約していたから、カイザサイグ嬢と縁をもてたらと考えてのことだったらしい」
はあ。
はあ。そうすか。へえ。あー、スルくんからリッターくんに、話しかけるなりして、友達になったんだ。聴いたっけ? 聴いてない気がする。友達ができたから一時下山したら一緒に四月の雨亭に行く、っていうお手紙が来ただけ。
あ、そういえば、そうだ。云ってたじゃん? リッターくんと友達になりたかったのは、お家の思惑とか、家族の命令とかそういうのじゃないって。
ええー。まじかよ。
脱力した。なに、それ。スルくん、可愛い。ていうかリッターくん、今年の初めにそれを知ったのなら、俺にも教えてくれ。ユラちゃんに云うのはスルくんがはずかしがるかもだけど、リッターくんと比べれば俺のほうがカイザサイグ嬢と近しい。
そうじゃん? カイザサイグ嬢は自分の不名誉をおそれずに、俺に警告してくれた、剛毅な女性だ。ついでに、俺がさらわれた時も、カイザサイグ嬢とそのお付きのひと達でさがしてくれた。




