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本棚やベッドに細かい傷がついているお部屋はほかにもあって、すべてラウトさんがメモした。後で木工作業場へ伝えるそうだ。それでも、お部屋を酷く汚したままで出て行った学生さんは居なくて、だから俺達はすぐにお掃除を終えた。
出て行く為に社交室の前を通りかかったのに、学生さん達に捕まって、俺達は社交室にひきずりこまれた。主犯はマイファレット嬢だ。
「今、あたらしい学生さん達がいらっしたらどう歓迎しようかと、皆で相談してましたの」
社交室には甘いような香ばしいような、タコスの香りが充満していた。リッターくんがちょこんと椅子に腰掛けて、タコスを食べながら、男子学生に髪をあまれている。チヒロさまがココナツの香りがするお茶を淹れてまわっていた。
「皆さんはそちらへどうぞ」
「失礼いたします」
ラウトさんがかしこまり、サレテットちゃん達やレーイチくん達がお辞儀する。俺も一拍遅れてそうした。
「グルブワースさん、マオさん達にもお茶を戴けますか」
「はあい」
チヒロさまがにっこりして、ティーポットにお茶っ葉と椰子糖の塊、ミルクを追加する。山羊ミルクかな。
すぐに、魔法で淹れたお茶が供された。俺達はマグをうけとって、お礼を云い、お茶をすする。おいしい。
髪を綺麗にあまれたリッターくんがやってきて、無言で俺の隣に座った。リッターくんは手に持った小さなボウルを、ひょいと俺の膝の上に置く。いくりだ!
「食べていいの?」
「ああ」リッターくんは頷く。「ユラに届いたものだ。マイファレット嬢へ持っていけと云うので、持ってきた。お前が食べても問題ないと思う」
あ、そういう理由かあ。
マイファレット嬢がふふっとわらって、おいしそうなバタークリームのはいったお皿を持ってくる。「これを添えてもおいしいそうですわ」
「あ、ありがとうございます」
「ロヴィオダーリ卿、レフオーブル嬢へお礼を伝えてくださいます?」
「ああ」
いくりをひとつとって、口へ運ぶ。かなり熟れているが、腐れてはいない。おいしい。ためしにバタークリームをつけてみると、お菓子みたいな味になる。これはこれでおいしいな。
マイファレット嬢は、ラウトさんが座ったソファの肘掛けに浅く腰掛けて、なにか話している。相変わらず優雅な物腰だが、少し砕けた感じになってきた。レーイチくん達にはチヒロさまが気さくに話しかけ、サレテットちゃん達は縮こまっている。
「リッターくん」
いくりの種を収納空間へいれた。「九月になったら、カイザサイグ嬢が入山だね」
前々から、リッターくんがカイザサイグ嬢をどう思っているのか、訊きたかったのだ。だから、ちょっとずるいけれど、水を向けてみる。




