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ルシュエン・センチュアライニ。センチュアライニ子爵の次女。志望の職業は護衛士、もしくは拳闘家。体力:優。実技では最上位の班に組み込まれている。
優秀な入山者であるセティさまが、一撃でノック・アウトされたのを見ても解るが、体力のない俺がかなう相手ではない。もの凄い衝撃が頭にあって、俺はそのまま倒れた。
はっと目を覚ますとベッドに寝かされていた。上体を起こす。「おはよ、マオちゃん」
元気のない声がした。……ディロさんだ。
四辺を見る。見たことのない部屋だった。がらすのはまった大きな窓があって、その向こうは明るいが、おそらく魔法でそう見せかけているだけだ。その反対側に、両開きの扉。壁際に背凭れのついた椅子がふたつ。
室内にはベッドがよっつ、相当距離を持って配置されている。病院みたいだな。俺はふたり部屋をつかっているが、その三倍以上ある。だから、四人部屋、ということではないだろう。療養用の部屋……かな?
俺は窓を左に見て、扉側のベッドに、寝かされていた。
ディロさんは、俺の正面だ。俺と足が向かい合う格好になっている。クッションを沢山積み重ねて、それに凭れかかり、両手の指を組んで、軽く目を伏せていた。
「学生に気絶させられたんだってね。やっぱり、ろくでもないよ」
気絶……。
記憶がよみがえってくる。そうだ、帝国寮の学生に、思いっきり平手打ちされたんだった。
俺はベッドを降りようとして、くつがないのに気付いた。収納空間からくつを出す。最近漸くはけるようになった、紐の長いサンダルみたいなやつ。はけると云っても、アーフィネルくん達みたいに複雑に紐を交差させたりはできないから、ぐるぐるするだけ。
「あの、ディロさん、聴いてない? 俺が気絶しちゃった後、どうなったか」
「さあ」ディロさんはこちらを見ない。「どうして気になるの。奉公人を気絶させたくらいで、たいした罰なんてないでしょ。我慢するしかないよ」
「あ、そっか、じゃあいいんですけど」
「は?」
ディロさんがこちらを睨んだ。俺はベッドに腰掛けたまま、一応くつをはく。トイレ行きたいし。「いやあ、処分されたりしたら可哀相だなって。俺の間が悪かったから」
「……なに云ってるの。気絶したんだよ。酷い殴られかただって、癒し手の先生が云ってた。悔しくないの?」
「えーっと、うーん。厳密に云うと、やだなあとは思いますよ」
「じゃあ」
「でもあの。色々と事情があって」
苦笑いする。靴紐をあしにぐるぐる巻きつけ、結んだ。これでよし。




